Gethsemane

Thomas Haweis


2005-06-06 MON.


ついこないだ、ブルース発祥 100 年!なんて話が出ておりましたが、どうやらもっと遠いとこまで遡る羽目になっちゃいそうです。
事の起こりは江戸川スリムさまからのメールでございました。

Blind Willie Johnson の "Dark Was the Night, Cold Was the Ground" について、元ネタ探しを「つい」してしまったばっかりに、どうやらとんでもない迷宮に踏み込んでしまったようだ⋯っちゅうことでございました。
氏によりますと、その原曲では?っちゅう "Gethsemane" って曲の譜面に辿りついてみたら、その曲は紛れもなく、「あの」 "The House of Rising Sun" だった!のだそうでございます!
うひょひょ、それだけでもじゅーぶんキョーミ深いのに、さらにトドメを刺すかのごとく、次のメールでは "House of Rising Sun" と "Gethsemane" をつなぐ線が見えてこない、っちゅーヒトコトが。

ああ、いけない!ワタクシの探究心が⋯いえ、正直に言いましょう。野次馬根性が「おおいに」刺激されるじゃあ〜りませんか!
だいたい、その曲の作者ってえ 18 世紀の聖職者から洗ってみなきゃねえ⋯なんて、誰かさんに乗せられてるよな気もしないではないけど、ま、いっか。

「原曲」 "Dark Was the Night" の作者とされるのは、イギリス人 Thomas Haweis でございます。
1734 年 1 月 1 日、イギリスは Cornwall の Redruth で solicitor(事務弁護士。勅撰弁護人よりも格は下)の息子として生まれた Thomas は Truro Grammer School で教育を受け、その後、外科医の薬剤師として就職しました。
しかし、英国国教会の福音伝道師 Samuel Walker の影響を受けて 1755 年には Oxford Christ Church の「呼ぶ声が聞こえる(?)」と聖職者へと転向しております。このときには同教会の牧師 Joseph Jane の援助を受けた、とされております。
そして神学生として学んでいるときに、ちいさな信仰のグループを設立し、それは後に歴史家の Tyerman によって Holy Club と呼ばれることとなりました。

1757 年にはめでたく聖職叙任を受け、Oxford の St. Mary Magdalene 教会(キリスト教にさほど詳しい訳ではありませんが Mary Magdalene とは「マグダラのマリア」のことではないでしょうか?違ってたらツッコミ入れてくだされ)の司書となったようですが、ここでは教義上の問題から解職されているようです。
そこで彼は London に赴き、 Martin Madan のアシスタントとして病院で勤務し始めますが、同時に Peterborough 伯の求めで礼拝堂の牧師となりました。
1764 年にはメソジスト教会の高みに登ることに成功し、Aldwincle の Northamptonshire 教区を治めることとなります。
さらに 1774 年からは Huntingdon 伯爵夫人のもとで、布教活動に就き、やがては 1795 年に設立された London Missionary Society ─ L.M.S. に属し、世界を対象とする布教活動に入っています。
そして彼がオーストラリアの Sydney をベースとしてインド洋沿岸地区、南洋諸島から東南アジアまでをその布教の重点地区としていた時期(おそらく 18 世紀末、1790 年代の後半と思われます)に Sydney の the Sydney Missionary and Bible College によって刊行された賛美歌集 Living by God's Grace の中に収録された Thomas Haweis の手になる曲が "Dark Was the Night" でした。

この時の歌詞はまさに賛美歌らしく、キリストの受難を歌ったものですが、それは受難を前にしてゲッセマネの園で神に祈るイエス・キリストを主題としたものであり、当然、後には "Gethsemane" という「曲」へ、と昇華(?)していったもののようです。
現代にあって賛美歌などを歌っている Russell Baker のサイトに記載された歌詞を信じれば、そのオリジナル "Dark Was the Night" と "Gethsemane" では、二番以降の歌詞が微妙に異なっています。
もちろん大意に変化は無いものの、そのようなディテールの差異に、変化のポイントがあるのかもしれません。しれませんが、教義に詳しい訳でもなく、英語表現の正確なニュアンスも「掴んでいる」とは言い難いワタクシには、その違いを論ずるほどの力はございません。
強いて挙げれば、 "Gethsemane" では神に対して You と呼びかけている形になっていますが、原曲の "Dark Was the Night" では古語表現たる Thy が使われております。
また bitter cup を「 take 」の Gethsemane に対し原曲では「 remove 」となります。
ま、そのへんの細かい差異は http://members.ozemail.com.au/~srecbaker/gethsemane.htm で確認してくださいませ。
なおこのサイトを開きますってえと、その "Gethsemane" が MIDI で鳴り響くのでございますが、みなさま、「あっ、この曲は!」と言うハズの、あの曲 "The House of Rising Sun" のメロディじゃあ〜りませんか!

では一方の "Dark Was the Night, Cold Was the Ground" は?ってえと、これも http://members.ozemail.com.au/~srecbaker/dark_was_the_night.htm で聴くことができます。
ただし、こちらは「遥かに」賛美歌らしい穏やかに音高が推移してゆく、いかにも聖歌隊が歌いそうなメロディで、そこには House of Rising Sun に相通じるものは見当たりませんねえ。

さて、"Dark Was the Night, Cold Was the Ground" と "Gethsemane" の「どちらが」原曲の "Dark Was the Night" に近いのか?あるいはそれぞれがどこを受け継いでいるのか?
ま、少なくとも歌詞だけを見ると "Gethsemane" が近いようなのですが、あいにく原曲とされる "Dark Was the Night" は歌詞にしか辿りつくことができませんでした。メロディを聴くまでは、なんとも判断できませんねえ。

てなワケで、も少しタンケンしてみよかな?

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