Back to the World

Curtis Mayfield


2005-09-22 THU.





現在ではイラクがアメリカにとって第二の「悪夢」と言ってよい様相を呈しておりますが、およそ出口の見えない、「勝利」も「栄光」も「凱旋」も無い、ただただ疲弊するだけの「戦い」と言うことでは、ヴェトナムでの解放勢力とのワケの判らない戦闘がアメリカの最初にして最大のトラウマとなったのではないでしょうか。

当初、西欧型の合理的な戦力をシステマチックに投入すれば共産ゲリラなど「敵ではない」とタカを括っていた軍首脳部がその誤りに気付いたのは一体、いつのことなんでしょう?
もしかすると、最後まで、サイゴン陥落まで「そんなことはありえない」という認識でいた上層部なんてのもいたかもしれません。
そんな連中が傷つけられたプライドを取り戻すために、「敗因」を徹底的にサーヴェイしていたら、ハナから価値観の違う地区での戦闘では西欧的な戦場の常識など、まるきり通用しない、ということにちゃんと気付いたハズなんですが、そこらのアナライズがきちんとされていないから、またまたイラクでも近代兵器や物量で「制圧できる」と思ってしまう。
「制圧」なんてのは「仮の姿」であって、それはなんの解決にもなっていないことにまだ気付いていないとすれば、あのヴェトナムでの(アメリカ側の兵士のも、だけど)膨大な死者たちの霊は「浮かばれない」でしょう。

この Curtis Mayfield の Back to the World は、そのヴェトナムという、アメリカ軍兵士にとっての「地獄」から、World、つまり、そこに行くまでは確固としてあった、理解し得る「因果律」で動いていたアメリカでの「日常」にようやくヴェトナムから生還することを歌った曲なのですが⋯

Crawlin' through the trees, suckin' mud up to my knees
Fightin' this damn war, wonderin' if the Lord knows what it's for...


密集した熱帯雨林の樹木の闇を潜り抜け、膝までぬかる泥の中を這い回って、いったいなんのためにこんなクソいまいましい戦争をしなきゃならないのか、と望郷の念にかられていた不条理な戦場から、ようやくなんとか母国に帰還を果たし、かって棲んでいた街に降り立てば、そこにはまた別種の「衝撃の未来」が待っている⋯

So we're standing here in future shock
Can give the mind an awful block...

I've been beatin' up and robbed
Soldier boy ain't got no job...

Forgiveness instead of amnesty...


これまでの戦役とは異なり、せめてもの「勝利した」という自負さえ持つことが出来なかった「屈辱の」ヴェトナムは、その間にアメリカ国民の精神をも「荒廃」させてしまったのでしょうか、ヴェトナム帰還兵には無事に帰ってきても職が無く、心を支える「栄光」すらもなく、路上では若いギャングたちに情け容赦なく殴打されて、多いとは言えない金品までも奪われてしまう。
こんな国のために戦っていたのか、という二重の意味での「敗北」がヴェトナム帰還兵を打ちのめす⋯

1973 年に発表されたこのアルバム BACK TO THE WORLD は、視点を言わば政治的な「相」においた、ある種ラジカルな作品でした。
そんなところが、「ブラック」さが一番!てなブラザーたちとはズレてたようですが、ワタシは彼のこんな側面こそが好きなんでして、そこら、ワタシにとっては 1960 年代末の Sly and the Family Stone に通じるものがあるみたいです。

さて、Sly のサウンドにおける Larry Graham に比べれば、シンプルなベースで始まる Back to the World は、まるでおざなりなアメリカ政府の美辞麗句を思わせるような「美しげ」なストリングをバックに、それにたてつくようなインテンシティのあるドラムと悲鳴のようにも聞こえる Curtis Mayfield のヴォーカルが「二つの地獄」についての詠嘆を綴っていく。

アメリカの楽天的な側面をそのまま音にしたようなブラスがいくら勇壮なリフで糊塗しようとしても隠しきれない「不吉な」未来の予感⋯
終幕、 McDonnel F4 Phantom の飛行音がスイープして、そのようなテクノロジー偏重のアメリカの軍事思想、そしてそれが支える対外施策というものがこれからだって「変わることはない」ってのを暗示しているように思えてなりません。

ところで、ここ日本でも今回の選挙によって、「改憲」を「是」とする衆議院議員が「大半」を占めてしまいました。
とあるブログで、この選挙の争点は郵政民営化であって、改憲の阻止などと言っている社民党はズレている、なんて書いてあるのを見て喫驚いたしましたが、ま、将来ズレてたのはどっちか、その若いひとたちに召集令状が来てから考えてみるのもいいかもしれませんね。
たぶんあたしゃあ、その頃には年齢からいって、もはや「戦力外」だと思うんでいいんですが、やはり、今回、自民党に投票した方から徴兵していただきたいものです。




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