So Long, I Hate To See You Go

CeDell Davis


2005-11-02 WED.




先日の Robert Nighthawk のとこでも登場しました CeDell Davis、その新しいほうの録音、Fast Horse Records の When Lightnin' Struck The Pine からのナンバーでございます。

こんな(?)タイトルですが、ん?どっかで聞いたことがあるよなフレーズ、と思われるのも当然。これはあの Lowell Fulson の名曲 Reconsider Baby の最初の一節じゃあ〜りませんか。
⋯と思って聴いてみると、そ!もちろん「そのもの」なんでございますよ。
じゃあ、なんで Reconsider Baby にしなかったのか(特に Fat Possum ではそっちのタイトルで録音もしてるんですからなおのこと)不思議なんですが、ま、イロんな事情とかがおありだったんでしょね。
元々の曲名が長すぎてメンドー(いつも思うんだけど、たとえば Please Send Me Someone To Love なんてえ長い曲名でも案外すんなり覚えられたりするけど、それが Baby, What Do You Want Me To Do とかになると、やはり英語を母国語としてないせいか、これは覚え難かったですねえ)なんで、特徴的な歌詞の一節をとって短くしたり、あるいは前回も来てた客が特に印象的だった一節を憶い出してリクエストする、なんて場合「曲名」が変化しちゃう、なんてのはありそーですが、このケースじゃ逆に長くなってるし!
そー言えば、これも Lowell Fulson の Talking Woman Blues も、コリンズちゃんの場合、出だしの Oh! Honey Hush! ってのがそのまま曲名になっちゃってましたよね(ま、これはそんとき曲名をド忘れして・・・なんて可能性も無いではないけど)。

CeDell Davis 自身のスライドによるスリリングな幕開けで始まるこの曲は、モダーン・ブルースを無理矢理「ルーラル風」に演奏してみました(あ、これは、あましコンジョーが良くないワタクシにはそー思えてならない、っちゅーだけでして、ヨい子のみなさんはスナオにたのしみましょね)、みたいな Fat Possum での同曲とは違って、独特の生命感に溢れ、その危なっかしいスライドと、いささか切迫感を伴ったヴォーカルとで次元の異なる求心力を発揮しているように思われます。
バックの面々(ドラムが Joe Cripps、ギターに T. Houston Jones、それにシアトルからのロック系のミュージシャンが加わっているみたい)は、そんな CeDell Davis を「きっちり」サポートしてて、なかなかいい!

さて、その CeDell Davis のギターですが、とってもユニークですよね?なんで、そーなのか、は彼の生い立ちにあります。
1927 年 6 月 9 日に Arkansas 州 Helena で Ellis Davis として生まれました。
そしてその少年時代を、兄のいた( Tunica から 12,3km 南に下がった)E.M. Hood のプランテーションで過ごしています。
ここでの幼なじみに Isaiah Ross、つまり後の Dr. Ross がおり、その影響でか Davis もブルースに興味を持ち、最初はハープから、そしてギターも、というコースを辿ったようなのです・・・が!
彼が 10 才になろうとしていたころ、突然、小児麻痺が彼を襲ったのでした。
母のいる Helena へ戻された彼は、その母のもとで治療とリハビリに励みましたが、どうしても右手の手先の機能は回復せず、そこで考えだしたのが、右手で弦をつまびくことは出来ないとしても、腕全体として見るとある程度は動かせるのだから、ここは発想を逆転し、右手には食事用のナイフ(一部資料ではバター・ナイフとしています。でも Fat Possum の画像で見ると、バター・ナイフっちゅうより、普通の食事用のナイフに見えるけど?)を固定してしまい、ギター本体も左右逆に抱えて、左手で、ネックの上から下に伸びたナイフで弦をピッキングする、というものでした。
これが CeDell Davis のギターに見られるユニークな音の由来のようでございます。しかも押圧が不充分なためか、その奏法も単弦スライドに限られているようで、さらにやや「滑らかさを欠いた」トーンがまた彼のギターの特徴となったようです。
そのような身体的ハンディキャップを持ったままでも彼はデルタ一帯で演奏し始めるようになり、やがては(その間のいきさつなどはちと「?」ながらも)あの Robert Nighthawk との 1953 年から 1963 年までの実に 10 年間にも及ぶ付き合いが始まったのでした。

しかしその間に、またひとつの新たな不運が彼を襲っています。
Robert Night Hawk と一緒にツアーをして歩くようになった彼も、普段は St. Louis を本拠としており、そこでは Nighthawk と同様に Big Joe Williams や Charlie Jordan、J.D. "Jelly Jaw" Short などとの交流もしていたのですが、そんな 1957 年のある日、これも St. Louis の酒場にいたときに、「手入れだ!」と言うニセ情報にパニクった客が出口に殺到した際にそれに巻き込まれた彼は、足を複雑骨折してしまい、(それまではなんとか自分の足で歩ける状態だったのに)以来、彼の生活には車椅子が手離せなくなってしまったのでした。
1961 年には Helena に戻りましたが、Nighthawk とともに Pine Bluff の Jack Rabbit でレギュラー・ギグの仕事をするようになったためそっちに移り、それからは Pine Bluff で暮らしています。
こうして 1963 年までの長い期間を Robert Nighthawk と「もっとも多く一緒にいた(?)」彼がそこからどんな影響を受けたのか?は、それ以前の彼の音が残っていないためなんとも言えません。

その CeDell Davis の初録音(?)と思われるのは 1976 年の Pine Bluff の University of Arkansas での演奏を捉えた Rooster Blues Records のフィールド・レコーディングでしょうか。これは 1983 年に Keep It To Yourself : Arkansas Blues Volume I( V/A )に収録されて世に出ております。

A1 W.C. Clay– King Bisuit Time- Opening Theme
A2 W.C. Clay– Keep It To Yourself
A3 W.C. Clay– Someday Baby
A4 W.C. Clay– Standing At My Window
A5 Reola Jackson– I'll Take Care Of You
A6 Nelson Carson– Roaring Twenties Rag
A7 Nelson Carson– Hill Country Blues
A8 Mack White– Old Time March
A9 Willie Wright– John Henry
A10 Willie Wright– Standing Around Crying
A11 Willie Moore– Willie's Blues
A12 Herbert Wilson– Hello Central ( Vocals, Guitar – Herbert Wilson )

B1 Trenton Cooper– That's Boogie
B2 Trenton Cooper– Educator's Blues
B3 Trenton Cooper– Fish Tail Theme
B4 Cedell Davis– Let Me Play With Your Poodle
B5 Cedell Davis– Lonely Nights
B6 Cedell Davis– Big G Boogie
B7 Cedell Davis– How Much More
B8 Willie Wright– The Natchez Burning
B9 W.C. Clay– What'd I Say
B10 W.C. Clay– King Biscuit Time- Closing Theme


以上、discogs のデータでは四曲が収録されていますね。

そして、たしか 1984 年には彼の映像作品、CeDell Davis: I Don't Change ってのがあったハズなんですが、その版元(って言わないか?)などはちょっと不明。ヒマな方はご自分でどうぞ!

アルバムとしては 1990 年の Feel Like Doin' Something Wrong Fat Possum 80322 が初のフル・アルバムで、さらに 1998 年には同様に Horror of It All をリリースしていますが、どうも Fat Possum じゃあアコースティック色を優先してるよなとこが強く、この 2002 年の Fast Horse Records からの When Lightnin' Struck The Pine がベスト、っちゅう気がいたします。ま、そこら、あんなスタイルのブルースがお好きな方もおられるでしょうから、それはそれで別にいいんですが。

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