Chicago Minors

Planet & Marvel


06-01-31 TUE.




Chicago への黒人の流入が本格化したのが、第一次世界大戦の影響によるもの、との分析がありますが、現実にデータとして、1916 年から 1919 年までという短い期間に、およそ 50 万人とも言われる黒人が(主に)南部から北部の工業・商業地帯に移動しています。
それは 1920 年代にはおよそ 100 万人にまで達するのですが、その背景となったのは、欧州で長引いた戦乱と、それから立ち直るための復興への努力によって、それまでアメリカ北部に「底辺の」労働力を供給し続けてきた「移民」の流入がストップしてしまったため、とも言われています。言わば、その空隙を埋めるために、黒人たちが流入したのだ、と。
一方では、彼らを送り出した南部の、特に第一次産業にあっても、それを後押しするようなファクターが出現していたようです。
それは産業革命以後、徐々に普及し始めていた「機械化」が次第に南部諸州の農場経営者にも浸透してきており、その導入が(特に)農園での労働力を、以前ほどは必要とはしなくなってきていました。
当時のまだ原始的だったコンバインですら、それまで 10 人の「手」を必要としていた作業量を、たった一人の作業員でこなすことが出来たのですから。
また、政府がそのような導入に関して、助成金制度で支援したこともあり、南部ではもはや労働力が「余剰」し始めていたことが、さらに移動を加速したと言えるでしょう。
そしてさらに大きな「心理的要因」となったのは、北部では「もっと人間らしく扱われる」という、脱出願望であったのかもしれません。たとえそれが単なる「夢」でしかなかったとしても⋯

そのようにして黒人人口が飛躍的に増大した北部の都市、なかでも Chicago は、そのような消費者に応えるべくレース・レコードの本拠地となって行くのですが、当初、その音源はほとんどフィールド・レコーディングに頼っていたのが現状でした。
そして Bluebird あたりからは、実際に地元に移動してきたミュージシャンのレコーディングへ、とシフトしてゆく動きとなるのですが、そこはメジャーらしく、「ヒットの公式」のようなスタイルを確立し、それに「あてはまりそうもない」ミュージシャンにはあまり注意を払わない、という状態になっていたのではないでしょうか。
そこで「相手にされない」ミュージシャンは自費でテスト盤を作ったり(それこそ ORA NELLE のスタートだったし、後のプレスリーも同じことを Sam Phillips のもとで行っている⋯ )レコード・ショップに直接交渉する、あるいは数は少ないけれど、メジャーの隙間を埋めるようなマイナー・レーベルにコンタクトするようになって行きます。
もちろん、逆にマイナー・レーベルから「ちょっと吹き込んでみないか?」と誘われたり⋯
そのマイナー・レーベルとしては昨日の ORA NELLE の他にも Chester A. Scales という人物の Planet および Marvel が挙げられます。

ORA NELLE に吹き込んだ翌年、Johnny Williams と Johnny Young の二人はシカゴのノースサイド、Square Deal にあった Chester Scales のもとに赴き、そのレーベル「 Planet にとっては」初めての「バンド」となりました(「」つきで Planet に〜としているのは、実は Marvel にはその前年の 1947 年に、すでに Snooky Pryor が Moody Jones とともに録音しているとされるため。ただし、Robert Pruter と Robert L. Campbell はその録音の存在を認めておらず、Snooky & Moody の吹き込みは Planet に1948 年の 11月、あるいは 12月に North Erie 301 にあった Universal — alt. United — Broadcasting のスタジオにおいて行われたとしています。
名義とは異なり、実際に歌っているのは Moody Jones というハナシもあるし、いや Floyd Jones だ、などとこのあたりについては各種の資料が整合せず、ワケ判りません。
さらにその同じ日ではないか、とも言われる Johnny Young & Johnny Williams に Snooky Pryor が「合流」し Let Me Ride Your Mule / My Baby Walked Out On Me — これは Planet —を録音しています。江戸川スリムさま曰く『まさに「アーリー・シカゴの傑作」にふさわしい名演だ。』で、ついでに Floyd Jones の録音 Stockyard Blues / Keep What You Got まで同じ日付の録音っちゅう説もあってますます混乱しちゃいますねえ)。

Chester A. Scales は 1914 年11月20日に Mississippi 州で生まれたとされています。
ただしすぐに家族は Kansas City に移ったようで、幼年期はそこで過ごしました。そして 10 代になった彼は St. Louis の Washington Technical High School に通っています。
その St. Louis では 1936 年に Clara Ellison( Tennessee 州の Jackson 生まれ)と出会い、1939 年には結婚。
それまで二人で Leffingwell 通りのナイト・クラブ、Rosebud Club を一緒にやっていたようですが、結婚後はどうやらクラブはやめて Clara の家具屋に転向したようです。
ただし、この Chester Scales って御仁は、いささか女性に関するトラブルが絶えなかったようで、1942 年には「重婚」の容疑で検挙され、翌年まで収監されるハメになっています。そのせいか Clara は店を畳んで Chicago へと移動するのですが、そこへ 1943 年に「出所」した Chester が合流し、ノースサイドで小さなレコード店を始めたのでした。
その Clara には Bishop という連れ子がいて、そのノースサイドでは三人が一緒に暮らし始めたようです。
ところが Chester は「外に子供を作っていた」らしく(それも二人の別な女性にそれぞれ子供を生ませていた!)ひとりは Evette という女の子、もうひとりは Chester Jr. という男の子で、Evette の母親となった女性は Maxwell Street の住人だったようですが⋯( Clara のほうは以前、双子を流産しており、それもあって「外に子供を作る」ことに対して寛大だったのでしょうか?彼女の心中ははたして⋯)

Scales 一家はノースサイドの Orleans Avenue に住むようになり、そこには Clara の知り合いだった John Lee Williamson、さらに Tampa Red も遊びに来たことがある、と Bishop Chester は証言しています。
その家から数ブロックのところ、North Sedgwick 941 に Northside Playland and Record Shop を開き、その近くには Johnny Williams も働いていた Oscar Mayer のソーセージ工場があって、他にも多くのブルースマンが職場としていたようです。
おそらく、この工場への行き帰りにこのレコード・ショップを目にしていたことが後の録音につながったのかもしれませんね。
もっとも、夏場には Chester が Maxwell Street まで出向いて、路上でレコードの販売もしていたそうですからそこで顔を見知った、という可能性が大きいとは思いますが。

Snooky Pryor によれば彼(とその the Cross Town Boys?)が Marvel に吹き込むようになったケースでは Maxwell Street ではなく、Sedgwick のクラブのそばで Chester に「発見され」ハナシがまとまったのだそうです。
こうして Planet および Marvel は Johnny Young & Johnny Williams、Snooky Pryor & Moody Jones、Floyd Jones、Bob Perkins、Jimmy McCracklin の 5 枚のシングルをリリースしたのですが、それらは Egmont Sonderling の所有する Old Swing-Master レーベルにリースされてもいました。
Bishop によれば、どうもその Old Swing-Master によって版権までも奪われてしまったのではないか?ということらしいのですが、その当時の実際の交渉は継父の Chester が行っていたため、確かなことは判らないようです。
1949 年の Chicago の電話帳から Planet Records の名は消えました。

そして Chester Scales が死んだのは 1997 年の 8 月、Wisconsin 州 Highland で享年 83 歳。
1950 年代にレコード店商売から足を洗い、Clara とも分かれて Wisconsin 州でトラック業を始めた彼は、また別な女性との人生を歩んでいたのでした。

Planet & Marvel Discography

Planet 101: Telephone Blues - Snooky & Moody
Planet 102: Boogie - Snooky & Moody


Nov. or Dec.1948, Chicago.
この 2 曲はカップリングとなって Old Swing-Master 18 A/B となる。

Planet 103: My Baby Walked Out on Me - Man Young
Planet 104: Let Me Ride Your Mule - Man Young


Nov. or Dec. 1948, Chicago.
Johnny Young-mandolin & voc. Snooky Pryor-hca. Johnny Williams-eg.
同じく Old Swing-Master 19 の A/B。Man はマンドリンから。

M 1312: Stockyard Blues - Floyd Jones
M 1313: Keep What You Got - Floyd Jones


Nov. or Dec. 1948, Chicago.
Floyd Jones-eg.& voc. Snooky Pryor-hca.&speech on M 1312
Moody Jones-eg.
これは Marvel 702 の A/B としてリリースされた他、Old Swing-Master 22 A/B としてもリリース。

PL-108: Boogie Woogie Bowl - Bob Perkins Trio
PL-109: Fool Again - Bob Perkins Trio


Jan.〜Mar. 1949, Chicago
Bob Perkins - as. & voc. Floyd Morris - P. &voc. Norman "Flip" Gaines - d.
Planet 103 A/B そして Old Swing-Master 17 A/B。つまり Man Young の「 Planet 103 」はレコーディング・シリアルであってリリースされたレコードのナンバーではない。

T 1305-1: South Side Mood - Jimmie McCracklin & his Blues Blasters
T 1307-1: I Can't Understand Love - same as above


1949, Oakland.
この 2曲は Trilon 244 および Marvel 701-A/B、さらに Old Swing-Master 24 A/B としてリリースされた。

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