ALEMBIC

02-10-25
いやあ、昨日の日記、ブルースはおろか音楽の「お」の字も無かったよな〜。

いつも見に来ていただいてる方たちも、どー反応していーか途方に暮れちゃったんじゃないでしょか。
すいませんねえ、こないだのだけじゃ説明不足みたいな気がして、クドクドとやっちまいました。ま、見なかったコトにしておくんなせえ。

というところで、トツゼンですが・・・「アレンビック」って知ってます?
そうそう、センターにハム・キャンセラー装備した・・・ ってそれは楽器のほーでして(それはそれで話題としちゃあ魅力的なんですが)、実はもうひとつ、当時センセーションを巻き起こしたモノに「アレンビックのPA」があるのでございますよ。

たとえば「グレートフル・デッド」などのライヴで使われたそれは、通常のPAの概念とは異なり、普通の意味での F/B(フォールド・バック、いわゆるモニター)系を持たない、というか必要としないのです。
そしてフザけたことに、PAスピーカー群はクラスター構成でステージ・バックからミュージシャンなめえのオーディエンス、っつートンデモナいセッティングになっています。

んなアホな!じゃマイクがスピーカーの真ん前にあるワケでしょ?「ハウリングの嵐」じゃん!ゼッタイ無理だあああ(←某板の誰かさんのパクリ)!と、お思いになるのは、まっこと当然でございます。
普通ならば、PAスピーカーってヤツ、ステージの左右にステレオ状態で配置され、そのスピーカーの前面を結ぶ線の前にはマイクを置かない、ってのがジョーシキです。
そうすっと、演奏者には自分の出してる音が聞こえないんで、足元に仰角をつけたモニターSPを転がしといて、マイクの指向性でハウリングから「逃げる」ワケです。
これだと、SP とマイクの相対関係が変化しない限り、「ハウリングしやすい」特定の周波数ってのが決まってくるんで、そのピークをパラメトリック・イコライザー(BOOST or CUT の中心周波数自体を自由に設定できる)や、33素子のグラフィック・イコライザーでツブせば、ある程度のハウリング・マージンは稼げるんですね。(回路固有の位相の回転があるため、距離だけではピークが決まらないし、その整数倍の周波数も必ずピークになるとは限りません。たとえば、440Hzでハウリっぽくなったとしても、そのオクターブ上の880Hzでは位相が105度以上255度以下回転していれば、同程度の音量ではハウリングが起こりません)

ところが、アレンビックでは、発想そのもが違ってて、まずセンターにあるヴォーカル用のマイクってのは、それに相対するセンターのメイン SPの前にあり、そのSPからだけ、その音が出ます。
そして、マイクはゼンハイザーのまったく同じもの2本が、およそ5〜6インチの間隔で平行してセットされ、実はその2本は互いの逆相の関係にあるのです。
当時「無線と実験」誌上では「サミング・アンプあるいはサミング・サーキット」(加算回路)によってその2本を合成し、2本のマイクからの信号で「差成分」だけを取り出すことにより、ヴォーカリストが2本のうち、どちらかだけに歌えば、その声は信号として、D クラスのスィッチング・アンプを通ってメイン SP から出て来ますが、両方のマイクに同じ音が入れば、それは回路内でキャンセルされる、と説明されております。

つまり、メイン SP からの音は2本のマイクに平等に入るため、ヘッド・アンプに入る前に消滅してしまう、ってワケね。
これならハウリングは起こりっこない!アッタマいい〜!
・・・ じつは似たようなのを、これをヒントにやってみたコトがあります。
Cavern Blues Band が弘前学院女子大の学祭でおこなったライヴですが。
まず中央にドラムをセットし、その左右にメインPAを配置し、フロント・ラインにはマイクを3本立て、センターのマイクだけは逆相接続用にマイク側の12Cのホットとコールドの配線を逆にしてあるキャノン・コネクターを使用します。
つまり「W」字の下のふたつがスピーカーで、上のみっつがマイクなのです。この配置だと、各スピーカーから見てステージ中央側が逆相、もうひとつのマイクが順相になりますから、センター・マイクが「キャンセラー役」を果たすことになります。
実際には、今ちゃん(こんちゃん)のハープにハンドマイクを使うため、それ用の細長いPAスピーカーを別にステージ前に転がしたのでそれが聞こえづらかったのですが、ヴォーカルはなかなか歌いやすかったですよ。

しかし、この画期的なアレンビックのPAも、そのあまりに大量のSP群のセット・アップに時間がかかり過ぎ、経費も膨大なものであったため(その上、アレンビックの内紛もあったと聞いたような気もします)次第に敬遠されるようになり、やがては歴史の闇(はちとオーヴァーか?)の中に消えてゆきました。
そして、この、あまりに製作費用がかかり、(運用はともかく)セット・アップにもあまりに手間がかかる方式は、それを継承するものもなく、一部のモノズキたちの記憶の中にだけ今も「思い出」として残っています。
permalink No.195

Search Form