I put a spell on you again.

2003-04-24

ニーナ・シモンの「I put a spell on you」ってのは、ズバ抜けて「重く」、そして「暗い」記憶を残しています。「あなたに呪いをかけてあげる」なんてものじゃなく、「呪い殺してやる」というニュアンスも感じられる実に「執念深そうな」、I put a spell on you だったのです。
それを聴いた友人のひとりは、いみじくも「黒い園マリ(その・まり。日本の歌手で〜す)」と表現いたしました。特にイントロが超メランコリックでしたからねえ。

ワタシの聴いた最初の「I put a spell on you」って、たぶん、アラン・プライス・セットのだと思うんですよ。だから、C.C.R.のを聴いたとき、ん〜?なんだかカッコ悪い、って思った記憶がありますね。それが、このニーナ・シモンのを聴いたときには、最初、イントロじゃあ、まさか「I put a spell on you」だとは思いませんでしたよ。そのくらいクセのあるイントロでしたね。
そのニーナ・シモンが4月21日に南フランスの自宅で死亡、という記事が新聞に載っておりました。
ジュリアード音楽院で、正統的な西洋音楽の教育を受けてはいるものの、ジャズやソウル、ゴスペルやブルースといったジャンル分けを超えて、ただひたすら「黒人」であることに立脚し、強いて言うなら「黒人音楽」それも「アメリカに強制的に連れてこられた黒人たちがアメリカで作り上げた音楽」をひたすら歌い通したような気がいたします。

本来ジャズ嫌いで、わけても白人のヘレン・メリルなんてのが「特に」嫌いだったのですが、アビ・リンカーンやエラ・フィッツジェラルドといった黒人女性ヴォーカルは「JAZZ」というジャンルを意識せずに聴くぶんにはあまり抵抗はありません。サラ・ヴォーンもそうですが、ワタシの中では「Jazz Vocalist」としてではなく、「Songstress(Songsterの女性形)」として、いわば「歌姫」としてのプレゼンスを持っています。
ただ、そんな中にあっても、ニーナ・シモンは「とびぬけて」黒人としての「自覚」と「自尊心」、「誇り」に満ちていたような気がするんですよ。
もしかすると、ジュリアード音楽院、というキャリアによるものなのか、「ポピュラー臭」があまり感じられないように思えるんですが。その、ややクラシック的なマジメさ、がどんな曲を唄っていても「純粋芸術を指向するベクトル」を内包している、と言っては言い過ぎでしょか?
時として、そのあまりの膠着ぶりがいささか聴く側の(ってかワタシだけだと思うけど)「酸欠」を招く場合もあるけれど、ブルース・ソウル・ゴスペル・スピリチュアル、それらを統括した「Songs of black Americans」を具現し得た唯一の「Songstress」ではなかったか?という気がいたしております。各ジャンルに、それぞれのクィーンはいますが、ね。

一度、来日公演直後のインタビューを読んだことがありますが、ショー・ビジネス的な発言が非常に少なく、かなり精神性の高い談話(というか、公民権について、女性問題について、など)に終始していた記憶があります。
ストイックで原初的できわめてエモーショナルな独特の世界は、正直ややワタシには「重い」のですが、それでも、凄い歌を唄うひとだ、という強烈な印象を受けたものでした。

70才だったそうです。

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