everything must go/steely dan

2003-06-13
Steely Dan の新しいアルバム『everything must go』を語るには、やはりまず、そのオープニングを飾る「THE LAST MALL」から始めよう。
さりげなくヴィブラートをかましたフェイズ・アウトのギターはウォルター・ベッカーによる、良くこなれたプレリュードだ。
バックの「小粋」なリフも利いているけど、これもウォルター・ベッカーによるベースがまた相変わらずのアヤしい音階を上下して、騒々しくはないが、決して冷たくはない独特な空気を造り出しています。
『TWO AGAINST THE NATURE』から3年と少し。また馴染みのあるこのメロディと、歯切れの良いライトでシュア、かつタイトなリズムに乗せて歌われる、不思議な「苦味」を滲ませている「歌詞」の世界が帰って来ました。
ベッカーの手馴れたギターを「快い」って感じるのは、これが、ワタシ自身の「時代の音」だからなのでしょうか?

続く「THINGS I MISS THE MOST」ではアタマっからベッカーのクセのあるベースがウロつき始め、それに気をとられているうちに、もうそれだけでヤツらの掌中に陥ってしまっているのよねん。曲の造りそのものに新味があるわけじゃあないんだけど、やはり目線がいい、って言うか、日常に潜むドラマを丁寧に掘り起こしていくような「意識」の在り方が、派手ではないだけに逆にユックリと足元から這い上がってくる「気配」として活きています。(でも途中の歌詞の日本語訳、「ブドウ園の家」はないよなー。ウェスト・コーストのナパ・ヴァレーに住んでるんじゃないんだから)
「BLUES BEACH」ではさらにクロックを強めたリズムに ATLANTICっぽいオルガンも絡んで、そのままで、なんだったらメンフィス・サウンドにだってなりそうだけど、彼らのメロディ感覚はその地点を離陸して、遥か天空を駆け巡るのですよ。アクは強くないけど、でもやはりマネの出来ない、身を翻すような和音の軌跡を残して。
「GODWHACKER」ともなると、サイドのギターのリフもさらに冴えわたり、スカスカなのか、ギシギシなのか、なんとも表現し難い空間密度をくぐり抜けて行くスペイシーな音の回廊が出現する。そこでのドナルド・フェイゲンのシンセによるソロは時として、あたかもパリの香りをまとったアコーディオンのように光り輝く。(カンケーないけど、コバとかって日本のアコーディオン奏者いるでしょ?あれ、「下手」だよね。誰も言い出せないのかもしんないけど)

「SLANG OF AGES」さあ、お待ちかね、ウォルター・ベッカーのヴォーカルだよん。重心低くグライドするリズムの上を漂うように、さほどの気負いもなく、常温のヴォーカルが流れて行くある種ノスタルジックな世界。なかなか快いヴォーカルです。
「GREEN BOOK」は一転して、ややヒネリのきいたナンバーと言ってよいでしょう。一見シンプルなリズムにも穏やかながら巧みなトリックが隠されており、決して一筋縄ではいきません。
ドナルド・フェイゲンが歌うところの「グリーン」っていう歌詞には( Green Earingもだったけど)独特なニュアンスが込められていますよね。アルチュール・ランボーが母音に色を当てはめたと同じように、彼らにとっては色そのものもサンボリズムの対象として「素通り」出来ないもののようです( Green bookってのは旅行ガイド本のコトでもあるけど、もちろん、そのイミで限定しちゃうと、つまらない)。この曲での微妙に音階をよじ昇り、滑り降りて来るベースの「音の選び方」がやっぱりイカレててステキ。

「PIXELEEN」なだれ込んでくるようなドラムから始まるこの曲、なぜかバック・コーラスの歌う部分に「六本木の通り」と「ヌードル・ショップ」が出てくるのよねん。あたしとしちゃあ、ここは蕎麦屋よりは「ラーメン屋」と考えたいとこやね。ま、それはともかく、ここで描かれるのは錯綜するエピソードの断片たち。ギターはリズム・カッティングにおさえ、管にソロをとらせる手馴れた造り。
「LUNCH WITH GINA」柔らかいコーラスでなにげなく綴る先の見えないラヴ(?)ストーリイ。ドナルド・フェイゲンのシンセ・ソロがそれ故に一層秘められた奔流となって走り抜けるのでしょうか?

いきなり Jazzy でドラマティックなオープニングは Walt Weiskopf のテナー・ブロウ。ラスト・ナンバー「EVERYTHING MUST GO」はそんなカオスの中からゆっくりと立ち上がります。ひとつの会社が佳き時期も経て、しかし気付くともうとり返しのつかない状況に陥り、ひっそりと戦線を離脱してゆくストーリイが静かに語られてゆきます。摩天楼の目くるめくパースペクティヴの中にさまよう魂たち・・・しかし、これはレクイエムではない。意外と乾いたメランコリィは過ぎ去りし日々をドライに振り返り、淡々と分岐点だったかもしれないものたちをなぞって行く。

1曲目の「閉店売り尽くしセール」に始まり、最後の「全部チャラ」で終るってえこの構成は、間に生活にまつわる断章を挟みつつも、ひとまず、ここまで抱えて来てしまったものを「総点検」しよう、ってえ意志の表われなのでしょか?
このアルバムでは基本的に「ひとつのバンドであるかのような」ミュージシャンのクラスターによって作られていますが、もはやここまでまとまっていたら、事実上のバンド「STEELY DAN 2003」と言っても良いのかもしれませんね。
ソリッドでタイトなリズムがもたらす快感をフルに味わいつつ、多彩な言語を持ちつつも、それに拘泥することなく、まさに「過不足無く」語る STEELY DAN。
若いひとたちに、ゼヒ聴いてほしい、ってえディスクでは無いけれど、出来るコトは全部やっちゃおう、ってえ「ガっついた」音楽とは一線を画するこの存在を知っておくのもワルいコトじゃあないかも。

個人的にイチバン好きなのは「GODWHACKER」。この曲でのシンセ・ソロが「いい!」・・・と、今回は出たばっかりの新譜の紹介みたいなもんですから、以前のミッシェル・ガン・エレファントと同じスタイルとさせていただきました。

steely dan/everything must go/ REPRISE WPCR-11530
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