Look But Don't Touch

Kenny Neal


03-10-01
まるで Steely Danのようなタイトでスラッギーなリズム・セクションに乗って、案外ブルージイなギターの「泣き」で始まる( Fender TELECASTER、ヒョっとするとメイプル・ネックかなあ?)このナンバーですが、やはりっちゅーかそのコード進行は尋常ではなく、Am/G-Am-Am-Am を一単位としてリピートし、それが時に Am/G-F-F/G-Amっちゅう帰結を見せるのですよ。
しかも一回だけ登場するサビもございまして、そこでは Dm-Dm-Am-Am-F-F-E-Eってな構成になっております。
曲の内容は全体のマイナー・ムードに反し(?)、自分のイケてる彼女にココロ奪われるオトコが出てくるのも当然だ。彼女はホントにスバラしいんだから。
でも見るだけにしろよ、手を出したら承知しねえぞ!っちゅう歌詞でございます。

まあ、確かにねえ、イケてる彼女のいるオトコとしちゃ、そりゃシンパイですからねえ。
で、また、そんな彼女に目を付けるなんてのがこれまたタチの悪い女蕩らしで、メッチャ口が巧くって、「どれ、ひとつこの女にふさわしいのは俺様だ、ってのを見せてやっか?」なんてシャシャリ出て来やがるんですよ。
ん?そんなこたあどーでもいい?うひゃひゃ、シツレイいたしました。

まず、オープニングのスネアの音にシビレますねえ。
これこれ、ドラムは、いえ、「現代の」ブルースのドラムはこーでなくっちゃあ!(たぶん)浅いシェルで Evans の Oil-Dumped あたりのヘッドを思いっきり「On」で録って、うっすらデジタル・リヴァーブ掛けてんじゃないかな?
さらに煽るよーなスラッピング・ベースがまたツボを心得たコントロールで、けっしてヴォーカルやギター・ソロをジャマせずに全体をファンキーな仕上がりに導いてますねえ。

このアルバムWalking On Fire は Florida 州 Sanford の King Snake Studio で録音され、New York の DMS でマスタリング作業が行われております。
モチロン Kenny Neal のギター&ヴォーカル、サイド・ギターは Earnie Lancaster、そしてキーボードはとーぜん Lucky Peterson ね。このアルバムでは彼の Silent Partners もバッキングに参加しているんですが、この曲に関しては恐らくベースが Bob Greenlee、ドラムが Jim Payne と思われます(だってこの曲のクレジットを見ると、Kenny Neal、Earnie Lancaster、Bob Greenlee の共作ってなってますからねえ)。
ブラス・セクションは「あの」 James Brown さんとこの The Horny Horns: Fred Wesley のトロンボーン、Maceo Parker のアルト・サックス、さらに Bill Samuel のテナー・サックス、Bruce Staelens と Danny "Boney" Fields のトランペット、Leroy Cooper のバリトン・サックスとなっています。リリースは1991年の 7月1日でした。

さて、この Kenny Neal、ご存知の方も多いとは思いますが、あの Raful Neal* の息子でございます。
1957年の10月14日、Louisiana 州の Baton Rouge で「ブルース一家」の一員として誕生しました。なんせ環境が環境ですから、幼いうちからブルースに親しんでいたようです。当然、彼を導いてくれたのは彼の父で、また時には父と交際のあった Buddy Guy や Lazy Lester、Slim Harpo からも薫陶を受けた、ってんだから恵まれてますよね。
だいいち、彼の最初のハープにしてからが Slim Harpo にもらってるんですからねえ。まだ 3才の幼児なのに!
それじゃハープがウマくなるのはとーぜんですよねー。でも、スグに彼はベースやギター、ピアノにトランペットと、興味の赴くままに浮気(?)し、彼の最初のステージは父のギグでピアノを弾いています。それが 6才の時で、正式に父のバンド・メンバーとして参加した時にはベーシストとして13才(!)。17才で Buddy Guy のベースになるまでの 4年間を過ごしました。
ただし、Buddy Guy のアドヴァイスによって、むしろギターに集中するようになり、ベーシストをヤメているようですが。

*Raful Neal は、1936年の 6月 6日、Baton Rouge で生まれています。彼と姉 or 妹の Cora は早くに両親を失い、Baton Rouge 郊外の Chamberlin の小作農だった叔父・叔母によって育てられました。サトウキビを刈り取り、綿を摘む生活だったといいます。14才でハープを始め、17才で最初のバンド The Clouds を作っています。そのバンドには Lester Johnson(後の Lazy Lester です)がギターで参加していましたが、若き日の Buddy Guy の登場によってその座を譲っています。
22才の時に、Raful Neal は Houston にベースを置く Peacock Records とサインし、最初のシングル Sunny Side Of Love を吹き込みました。続く1960年代には La Louisiane や Whit などの地元のレーベルに録音し、ローカル・ヒットとはなりましたが、全国スケールでブレークするには至りませんでした。
しかし、そのプレイは Little Walter にも影響を与えた、とされています。事実、地元では彼のコトを「ルイジアナのリトル・ウォルター」と呼んでいたそうですが、それってホメてないよな気がすんだけど・・・
彼が Louisiana 以外でも自分の聴衆を集められるようになったのは1987年以降のことです。Fantastic Label での Man Watch Your Woman が同年の W.C. Handy Blues Award の Blues Single of the Year 候補となり、注目を集めたことによるものです。
1990年にはアルバム Louisiana Legend、1991年には I Been Mistreated と次々とリリース、また彼の11人いる子供たちのうち 9人が音楽に関わり、特に本稿の主人公、Kenny Neal は、Louisiana Legend の録音にも参加しています。
1995年には the Louisiana Blues Hall of Fame にも名を印しました。


彼はカナダの Toronto に移り、彼の兄弟の Raful Jr.、Noel、Larry そして Ronnie と一緒に the Neal Brothers Band を結成し、アメリカから来るブルースマンのバッキングを務める活動に入りました。
さらに Baton Rouge に戻ってソロとしてのキャリアを開始する前に、カナダで Downchild Blues band**のフロントマンも務めていたようです。

**Downchild Blues Band は1960年代の晩期に Donnie Walsh が兄弟の Richard(後の "Hock" Walsh )とともに結成した(当時の)カナダ唯一の白人のブルース・バンド。シカゴ・ブルースとテキサス・ブルースのスタイルから範をとり、親交を持つようになった James Cotton からも影響を受けている。
Florida の Jacksonville Beach でのブルース・フェスティヴァルへの出演などで北米(の東半分かもしれないが・・・)では知られる存在となった。長い歴史を持つだけに、このバンドを通過(?)したミュージシャンは130人にものぼる。Kenny Neal はそれらの中でも「最も成功したブルースマン」である。


Baton Rouge に戻ると、プロデューサーであり、同時にベーシストでホーン・アレンジャーでもある Bob Greenlee と出合ったことにより、彼は次々とアルバムを製作し始めました。
ローカルな Baton Rouge ブルースにファンクの色彩を与え、さらにロックや R&B のテイストも加えた音作りは、Alligator というルートを得て、世に出ることとなりました。
1988年の Big New From Baton Rouge によって彼は一ローカル・ブルースマンから、全国区のアーティストになり、アメリカ及び(あるイミでは古巣とも言える)カナダでのツアーを行い、The Chicago Blues Festival、The King Biscuit Festival、The Motor City Blues Festival、The Beale Street Festival、The River Walk Festival、さらに The New Orleans Jazz & Heritage Festival にも出演、しかも1990年には Lucky Peterson & Silent Partners との 2ヶ月に及ぶ数々のクラブめぐりのスケジュールもこなし、ヨーロッパ・ツアーでは The Amsterdam Blues Festival のメイン・アクトにさえなっています。
1991年の 2月にはブロードウェイ・ミュージカル『Mule Bone 』での音楽を担当。そして 7月にはこのアルバムがリリースされました。ミュージカル中の 2曲がこの Walking On Fire に収録されているっちゅうんですが、どれがそれなのかは未確認でございます(ってゆーか、ミュージカル方面はあましキョーミが無いもんで。調べりゃスグ判るんでしょうがね)。この後も Alligator からアルバムが続いていますが、もうそのあたりはみなさんもご存知でしょ。
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