Can't Be Trusted Blues

Sylvester Weaver


03-10-02
先日の Mr. Freddie's Kokomo Blues でも触れましたが、録音の残ったブルースの歴史として

1923年には Ma Rainey や Bessie Smith、Clara Smith に Rosa Henderson。さらに Lucille Bogan も録音されています。ただ、この年にはインストながら Sylvester Weaver も録音してて、その中の Guitar Rag は云々・・・
と、紹介いたしましたが、たしかに歌ナシとは言え、初めてメインとして録音されたブルース系の男性ミュージシャンであることに変わりはございません。
その Sylvester Weaver がそれから 4年後の 1927年の 8月31日に録音したのがこの Can't Be Trusted Blues です。
いかにも Georgia 勢らしく(?)12弦ギターを使った12小節のブルースで、Yazoo の解説によれば「キーは E 」二つ目が上がりますが、10小節目も B のままで、折り返しにドミナントが入りません。
でも、一緒に弾いてみると、かなりピッチが合わないんだけど、これって 78's から CD 化する時の再生スピードが遅過ぎたのかなあ?
やたら間延びしてるよな気がすんだけど、こればっかりは当時ナマで聴いた、なんて長老が生きてて確かめでもしない限り判んないやね。

もしかすると再生スピードが「なっちょらん」せーかもしれないのではございますが、いかにも Georgia っちゅう(どんなや?)感じでゆったりと牧歌的に曲は進みますが

I don't love nobody, that's my policy.
I tell the world that nobody can get along with me.


で始まるとおり、やたらネガティヴな歌詞なのでございますよ。
ま、I don'tと love nobody とりょーほー否定じゃ、ウラのウラはオモテ、ってのと一緒で「肯定」じゃん?とツッコまれそうですが、ことブルースの場合、これは常套手段でございまして、I don't want no womanってのが「オンナじゃないのは要らない」なんてゆうイミじゃあないんですねえ。
否定を「イヤが上にも」強調する、ってのに使われとるのは、ブルースの歌詞を数多く御覧になれば判っていただけると思いますよん。
ワシゃあ誰も愛さん、そー決めとるんじゃ!だなんて、もうよっぽどヒドい目に遭ったんでしょうかねえ。
ま、中にゃあ、ワザとそんなコト言って、女子の気を惹こう、なんて手練手管に長けたエロおや・・・ うっぷす!プレイボーイもおられますからねえ。

Sylvester Weaver は 1897年、Kentucky 州 Louisville で生まれています。その彼が歴史上に登場するまでの期間についてはあくまで推量の域を出ないものの、おそらく彼にほぼ10年先駆けた Arnold Shultz* からも影響を受けた可能性があり、さらに Earl MacDonald や Clifford Hayes に率いられた the Louisville Jug Bands からもなんらかの影響を受けていた可能性があると思われます。
いずれにしても Appalachia 山脈に近い地域では独特のフィンガーピッキング・スタイルが熟成されていったのですが、やはり、そのキー・パースンとも言うべきなのが、この Sylvester Weaver だったのではないでしょうか。
そして、先日の Mr. Freddie のとこでも書いたとおり、彼こそがメインとして最初にレコーディングした「ブルース・ギタリスト」であることは(現在、判明している限りでは)マチガイないようです。

1923年の11月 2日、Guitar blues( 71996-B→Agram AB 2010に収録)と Guitar rag( 71997-B→Agram AB 2010 )を吹き込みしています。
どちらも歌無しのインストですが、Guitar rag は白人のカントリー系ミュージシャン、Leon McAuliffe によってリメイクされ Bob Wills And His Texas Playboys の「Steel Guitar Rag 」として1936年に(再?)ヒットしています。
また1924年の 5月28日に録音された Weaver's blues ( 72582-A→HK HK 4005 )と Smoketown strut( 72585-A→Agram AB 2010 )のうち、後者の Smoketown strut は
C をキーとした低音弦のシンコペーションを伴ったフィンガーピッキング・スタイルの原型として、後には、より洗練された形で、これもブルーグラス系のプレイヤー、Earl Scruggs に Merle Travis に受け継がれて行っています。

*Arnold Shultz、Kentucky 州 Ohio Country で1886年生まれのフィドル&ギター奏者。主に Kentucky 州の西部で活動していました、当時この地区では、少なくとも音楽シーンにあっては人種間の障壁が低く、充分な交流がなされていたため、彼は白人のハウス・パーティにも招かれ、そこで白人系の楽曲を演奏する機会も多く、それが独特の「 Kentucky finger style 」を生み出した、とする説もあります。事実、この時期にまだ若かった Bill Monroe(トラディショナルなブルーグラスの第一人者)とも会って交流したようで、また多くの白人の(特にカントリー系の)ギタリストたちにも影響を与えました。ただ、残念ながら、そのような口承はあるものの、自身の録音が存在せず、ケンタッキー大学の Charles Wolfe の著書によれば、その演奏を聴いたコトのある人の証言では、Blind Blake に匹敵する、とされています。


しかし、判っている範囲では、Sylvester Weaver は Guitar rag ( 2 Nov.1923 )吹き込みのほぼ 2週間前の10月23日にヴォードヴィル・ブルース・シンガーの Sara Martin のギター一本での伴奏者として Longing for Daddy Blues と I've Got to Go and Leave My Daddy Behind の 2曲をこれも Okeh に吹き込んではいるのですよ。そのギター一本での成功がメインとしての吹き込みの契機になったものでしょう。結局1927年まで彼は Sara Martin のバックを務めていたようです。
一方、彼自身の吹き込みは 26曲におよんでいますが、1927年 4月12日には Six-string banjo piece( Weaver stomp )という曲を吹き込んでいますから 6 弦バンジョーの奏者でもあったようです( Library of Congress LBC-14に収録)。
1927年の末に彼は音楽から引退することを決意したようですが、それまでに自分名義のものの他に、Walter Beasley(ジャズのサックス奏者じゃないよん)とのギター・デュオでの吹き込みもあります。New York での生活を離れ、彼は Louisville に戻り、そこで新たな生活に入っていきました。
そして1960年の彼の死まで、その存在はすっかり忘れられていたようです。
しかし、1992年、Kentucky Blues Society は基金を立ち上げて彼の墓碑を建立し、さらに毎年
Sylvester Weaver Award をブルースに貢献した個人に贈ることを始めています。
彼の名はこのようにして、今後も残ってゆくこととなったのでした。



今日は夕食を「ぷ」さんと一緒に、ってコトで田澤食堂にしたのでございましたが、某板で話題となっっていた「おにぎり」をついつい注文してしまったエイキョーされやすいワタシ。
ホントすぐその気になっちゃうんだから。
permalink No.529

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