Whoopie Blues

King Solomon Hill

2003-10-19 SUN.

ものスゴい高い声域で始まるこのブルースは、おそらく本来は VestapolチューニングのDオープンだと思うのですが、どーも D# になってるのはタブン、マスター起こしの際の SP の再生速度が早過ぎたんじゃないか?と思うのですが。
ま、あるいはモトモトのチューニングがいーかげんだった、っつう可能性もありますけどね。
つーワケで、おそらく D オープンのワン・コードのブルースです。
でもリズムはしっかりブーギに基本形に近付いていますね。
この King Solomon Hillさん、Yazooのライナーによれば、ラップ・スタイルじゃなく、フツーにギターを抱えて弾いていたようで、そのせいか、ひとつひとつの音がクリアーかつ正確に弾かれておる、とされとりますが、たしかにリズムまわりの小細工(?)もアイマイさがなく、キッチリとしたブーギ系の腰の据わり方ですよね。

表面的にはワン・コードのブルースという形になりますが、ギターを意識せずに、彼の歌だけに集中して聴いていると、フシギなことに、実際には弾いていない、サブ・ドミナントやドミナントの「香り」が漂ってきて、12小節構成のブルース進行を感じられるんですよ。たぶんこれはワタシだけじゃなく、聴いてみていただけば判ると思うんですが、そのようなコード進行に移行していく前段階、って気がしますね。ココロはコード・チェンジしてる、みたいな(?)。

彼の録音は1932年に Wisconsin 州の Grafton で Paramount のために行われた 6曲が Document CD #5036に収録されています。
他にも 2曲、リリースされてはいたものの、オリジナル・マスターが散逸して失われた録音があって、長いこと歴史から消滅していたんですが、John Tefteller というコレクター(かって Tommy Johnson の SP 一枚に 11,000ドルを支払ったこともあるんだって!)が同州の Ozaukee County でついに発見し、歴史の闇の中から甦ったのでございますよ。

Paramount はもともと Wisconsin Chair Co.つまり Wisconsin 州 Port Washington で椅子を作っていた家具製造会社が、20世紀に入って早々、 Edison Co.のために蓄音器(つまり、アレでげすよ。ハンドルでゼンマイを巻き上げて、78回転のレコードに真鍮のパイプの先に付いたダイアフラムのピック・アップのっけてラッパから音が出る、ってヤツ。ヴィクターの犬が聴いてるのでご存知の方も多いと思いますが、あれは実はポータブル・タイプでして、リヴィング・ルームとかに置くヤツはあんなラッパじゃなくて、リッパな家具のようなキャビネットがいわばバック・ロード・ホーンみたく内部にあって、美しいウォールナット仕上げなんかで磨き上げられ、調度品としても鎮座ましましてたんですねえ)のキャビネットを手がけるようになって「レコード産業」と関わりを持つようになり、1917年にはさらに一歩踏み込んで、そのレコード盤のほーも作り出すようになっちゃった、ってえケースなのでございます。
当初、民俗音楽(だと思う。原文じゃ「 ethnic records 」)を Paramount label の名でドイツ系、スカンジナヴィア系、さらにメキシコ系移民などを対象に製作し発売していたようです。
このころは、蓄音器を売るために、レコード盤をタダで付けてやったりしていたらしい。
しかし、Paramount にとって、当時の大手レコード会社と張り合ってシェアを獲得するのは容易なことではなく、結局大手も手を出さないニッチ・マーケットとして、1922年には「ブラック・ミュージック」とりわけジャズとブルースに「特化」することになりました。この面ではかなりの成果を上げ、ジャズでは Louis Armstrong や Jelly Roll Morton、そして King Oliver などを録音しています。
さらに Paramount は Chicago を始めとする各地や、ホーム・グラウンドである Grafton の Milwaukee 川に近く、 Falls Road の北にある古い編物工場(原文では an old knitting mill in Grafton )にスタジオを移し、そこでも録音をしていたようです。 当然この曲もそのスタジオで1932年の 1月に録音されました。

そこでなされたブルースの録音は内容的には素晴らしいものだったにせよ、当時のシェラックで作られたレコード自体は耐久性などに問題があり、また強度も無いために、その多くが破損などにより失われてしまいました。したがって、現在もそれが残っていたとしたら、かなりな希少価値が生まれることとなります。
そして、さらにそれに輪をかけるような「神話」として、1932年に Paramount が事業から撤退した際に、プレス・マスターと残っていた 78回転の SP が Milwaukee 川に投げ込まれた、というものがありますが、どうやらそれは事実ではなく、それらは第二次世界大戦時まで、Port Washington の工場の跡地に出来た Simplicity Manufacturing Co.内に保管されていたらしいのですが、そこで次第に散逸してしまったもののようです。

その1932年の録音では「 Whoopie Blues 」が 2テイク録られています。そして、今日のブルースで採り上げたのは、テイク 2の方なんですが、テイク 1との違いは、こちらのほーがファルセットの高い声で歌われていること、また最大の違いは、テイク 1の場合、あまし乗っていなかったのか、

Baby, next time you go out, carry your black suit along
Mama, next time you go out, carry your black suit along
Coffin's gonna be your prison, hell's gonna be your brand new home

っていう 4番の歌詞をスっとばしちゃっているんですよ。

King Solomon Hill( Joe Holmes )は 1897年に Mississippi 州 McComb で生まれています。
あちこち流浪を重ねジューク・ジョイントを渡り歩いた、なんて話もありますが、正確な資料が発見できませんでした。一応 Louisiana 州の北部の Sibley をベースにしていたようです。
そして1928年には Blind Lemon Jefferson と出会い、一時期、行動を共にして大きな影響を受けています。彼のレパートリィはその大半を Blind Lemon から受け継いでいるようで、その辺りは Gayle Dean Wardlow の著書『Chasin' the Devil Music 』に詳しく書かれているそうです(ワタクシは読んでいないのですが)。
彼のブルースはファルセット・ヴォイスでの歌と、間に合わせで使って以来らしい牛の骨によるスライド(!)に特徴があるそうですが牛の骨ってのはスゴいですねえホントだとしたら。

Paramount への録音の後、彼はふたたび各地のジューク・ジョイントをめぐる旅についたのですが、極度のヘヴィ・スモーカーでかつ大酒呑みだったのが原因だったのか、1949年に Louisiana 州の Sibley と Fryeburg の中間にある小さな町 Heflin のちかくで倒れ、脳内出血により死亡した、とされています。
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