Missing Link

2003-11-02 SUN.

さて、昨日、「 Robert Johnson の遺骸は松材の棺に入れられ、なんのマークもない場所に埋められた」と言う記述を紹介していますが、実はこれについても異論があります。
別な資料では、Greenwood の南西にほぼ 20km の位置にある Morgan City の小さな教会に葬られた、と。
ま、こんなだから、彼の墓はどこにあるのか?なんて番組が成立するんですね、きっと。
そうそう、彼の死因のとこで三つが話題になった、とも言いましたが、実はこれにも「もひとつ」あるんですよ。刺殺・毒殺・病死の他にヒソヒソと(?)語られたのが、「契約の満了時期が来て、悪魔が命を回収に来た」というものでございます。

なんたって深夜の十字路で悪魔と契約してるんですから、そりゃアリだべ!ってワケでしょうね。
およそ伝記作家たちのイマジネーションをこれほどシゲキするシチュエーションは滅多にあるもんじゃございません。
「深夜、ひとけのない十字路にギターを持って行くんだ。そこで巨大な黒人が表れるから、自分のギターをそいつに渡すんだ。するとそいつはそのギターを持ってチューニングをして返してくれる、それを受け取った瞬間から、ギターが弾けるようになるのさ。悪魔のようなギターがね」・・・これは Tommy Johnson が悪魔との契約について語ったとされているコトバです。
たとえブルースをあんまり聴いていない、さほど詳しくはないひとまでが、この「 Crossroad 」の神話を知っている場合があります。
どうやらそれは映画で(最近ならレンタル・ヴィデオで、かな?)観た知識から来ているようですが、そのヘンの「十字路」信仰(?)は我々日本人には理解し難いものがあるかもしれませんね。
日本にもかって「辻斬り」などと言って、出合い頭にいきなり斬りつけてくる「魔」の辻などもあったようですが、しかし、それらも実は妖怪などではなく、生身の人間が潜んでいて犠牲者が通りかかるのを待っていたワケで、そこに「上昇」のための神話などは存在しなかったように思います。

特にアメリカ南部の黒人たちの迷信というものは、その背景に、現状からの脱出の願いがバイアスとしてあるような気がいたします。
たとえ悪魔に魂を売ったとしても(だって、そのままだって「地獄のような」生活なんだもの。そのヘンの「救いの無い状況」を想起できなければ、黒人の被差別の歴史がもたらしたもの、ひいてはブルースだって理解することは難しいのかもしれませんよ)、それでギターがウマくなるんだったらいいじゃないか!ってなもんでしょ。

もちろん、冷静に考えれば、Robert Johnson のギターにしたところで、突然変異のようにそれまで誰も聴いたことの無いような「ありえな~い」フレーズだらけだったワケではなく、それ以前のブルースマンたちの様々なクリシェを「自分のものとして」血肉化して見事にブレンドされている、と言えるのではないでしょうか?
ただそのブレンドの具合が「いまだかってないほど」絶妙だった。そしてその上に自分の経験した様々なシーンを織り込んだ(と言われる)ココロに残る歌詞で溢れるブルース・・・
彼のブルースを形成するエレメントをブンセキしていけば、Robert Johnson のブルースの一面は理解できるかもしれませんが、なぜ「こーなった」のか?は永遠のナゾでしょう。
周囲からいくら精密にブンセキしてみたところで、我々が手にすることが出来るのは、やはり「結果論」でしかないのですから。
他のアーティストではしばしば見られる「あっ、これが元ネタかあ!」ってのが無いんですよ。それだけ Robert Johnson-nize されてんのね。

ま、そのヘンの研究がムダだ、なんて言ってるんじゃないんですよ。どこに興味を持つか?ってのも各個人の自由ですから。
ただ、この Robert Johnson に関しては「分析」の限界があるように思います。
それは、あの Ike Zinneman という重要でありながら、録音が無いため、一体どんなギターを弾いていたのかサッパリ判らん、っちゅー「 Missing Link 」が存在するからです。
このヒトが永遠のナゾなのよね〜。
そりゃ伝承は残ってますよ。夜遅く墓地に行って、墓石に腰かけてギターを弾いてた(!)とかね。でも、それじゃどんなギター弾いてたか、は判りません。たしかに彼のもとから帰ってきた(と言われる) Robert Johnson が、楽器に関しては「百科全書」的な知識量になってたり、そのギターもめざましく進歩してたとあっちゃあ「タダモノではない」とは思いますが、それだってドコまでがダレの影響か?なんて(おそらく本人だって)判らないでしょう。

Robert Johnson の残した録音は 1990 年にようやく完全な全集が発売されています。
また、長い間、切望されていた彼の顔写真も公表され、また少し霧が晴れてきたのですが、それでもやはり彼にまつわるミステリーは厳然として存在し、世のロマンチストたちに格好の話題を提供し続けることでしょう。
最後に The Robert Johnson Estate の発表している、彼のブルースを取り上げている後世のアーティストたちのリストでも眺めつつ、今回の Robert Johnson Special の幕を降ろすことといたしましょ。

Asleep at the Wheel / Rory Block / Blue Moon Swamp / Bluerunners / Curtis Chapman / Eric Clapton / Cowboy Junkies / Steve Earle / Fleetwood Mac / John Fogerty / Rory Gallagher / Steve Goodman / Grateful Dead / George Gritzbach / Ben Harper / Eric Johnson / Led Zeppelin / Bob Margolin / Robert McEntee / Bill Morrisey / Jonnell Mosser / Lee Roy Parnell / Red Hot Chili Peppers / Railroad Jerk / Kenny Rogers / Rolling Stones / Chris Smither / Bleeker Street / Artie Traum / Turtle Island / Chris Whitley / Hank Williams, Jr. / Cassandra Wilson / Warren Zevon


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