The Tale Of Memphis Dreams / Vol.8

STAX


2004-01-12 MON.
Memphis にまつわる Soul のレーベルとして Hi Records を紹介いたしましたが、実はもうひとつ、 Goldwax という存在もあるのです。そちらについては気が向いたら(?)いつの日にか改めて採り上げるかもしれません(が、期待しないでね。Goldwax についてはワタクシ、まあ好みのモンダイったらそれまでだけど、あまりプレゼンスを感じてないのですよ)。

Stax の Jim Stewart は Al Bell によって名目上の「社長」として、いわば名誉職に退いたワケですが、その背景には、Al Bell が自分の戦略が間違ってはいない、と確信するにいたった 1971 年の Isaac Hayes のメガ・ヒット『Shaft』のサウンド・トラック(グラミーばかりか「オスカー」まで獲ってますからねえ)や 1972 年の The Staple Singers の「I'll Take You There」に「Respect Yourself」、 Luther Ingram の「I Don't Want to be Right」の成功があったのではないでしょうか。
そのようなヒットを持っていることがディストリビュート契約を Columbia と結ぶ際にも「有利」に働いたことは確かで、そのヘンの実務交渉で、この会社をシビアに運営して行けるのは自分だ、ま、言い方を変えれば Jim ではダメだ、という実感を持ったからなのではないでしょうか?

ただ、この時の Columbia との交渉の成果はいささか奇妙なもので、当時の CBS 側の資料ではそのへんを
『Columbia Records の社長、Clive Davis は、Stax からのレコードを市場に出した時点で、それが売れようが売れまいが「出荷分」の枚数に応じた支払いを Stax に対して行うよう、「有無を言わせず」命令した』 と表現しています。確かに、これだけでは「出来高払い」じゃなく「見込み買い」だ、ってだけで、さほど問題にはなりません。しかし、普通ならこのスタイルを採る場合にはリスクを見込んで「それなり」に安く買うのがジョーシキなのに、後に Columbia が是正したごとく(なんと、高過ぎる、ということで一挙に 40% もカットされています)それはあまりにも常識を外れた配分率だったようです。

ここで登場した当時の Columbia の社長について、ちょっと道草を・・・
Clive Davis ; 1934 年 4 月 4 日、New York の Brooklyn でユダヤ系のブルー・カラー(この場合の「カラー」は色の「 Color 」じゃなく、シャツの襟の「 Collar 」ね。つまり日本で言うところの「サラリーマン」じゃなく、工場労働者を「ブルー・カラー」と言います)の家庭に生まれています。決して恵まれた家庭環境とは言えなかったようですが、おそらく上昇思考に溢れていたのでしょうか、IVY リーグの名門、Harvard に進み、その Law School で、奨学金を貰えるアヴェレージ B 以上をキープするために、相当なドリョクを続けたようです。そして無事 Harvard を卒業した彼はまず小さな法律事務所を開き、CBS を主要なクライアントとして持つ大きな事務所との仕事を始めています。やがて彼は直接 CBS 傘下の Columbia Records と関わるようになり、そこの経営陣は彼の商才とともに、音楽に対する情熱にも感銘を受けることになります。そのようにして Columbia に入った彼は順調に出世の階段を昇り、1967 年には、ついに CBS そのものの社長に就任しました。その年の the Monterey International Pop Festival にインスパイアされて彼はロック系のミュージシャン(ピンク・フロイド、ジャニス、サンタナ、ブルース・スプリングスティーンなど)を次々に獲得し、これがまた支持されて、Columbia の市場でのシェアを 2 倍に伸ばしています。
しかしそのさなかに会社資産の不正流用から彼個人の着服容疑に関して財務局の捜索を受け、CBS グループはそれが全社的問題に波及するのを恐れて 1973 年に彼を解雇したのです。
この大きなつまずきにもかかわらず、彼の音楽に対しての情熱が冷めることは無く、1974 年には Arista Records を設立しました。
結局、彼の金銭にまつわる疑惑に関しては、この資料ではそれ以上の追求はなされていません。はたして Al Bell との間で、なんらかの密約や裏オプションがあったのか?などといったことはまったく判りませんでした。

どうです?1972 年というのは、彼のケツに火がつく直前だったのですねえ。(その年は L.A.での『Wattstax』コンサートの年でもあったのですが)
1973 年には、CBS は大量のレコードを発注し、当然 Clive Davis の取り決めに基づき、巨額の対価が Stax の金庫に流れ込むことになります。その異常な金の流れはアメリカ国税庁の注意を惹き、さらに前述のとおり、Clive Davis 個人の財務管理に関する疑惑とのからみもあって、財務局も乗り出し始めていた時に、現金 100,000 ドルを空路で運ぼうとして空港のゲート・チェックで露見した社員がいたために Stax にも査察が入りました。だって、誰が見ても裏バック・マージンでしょ、そんな現金を人が運んでるなんて。判り易く言えば Columbia は Stax に「かなり」高目の支払いを行うかわり、Al Bell はその中から密かに一部を Clive Davis 個人に「還流」させるメカニズムを作っていたのではないか?という疑惑でしょう。

結局 CBS は Clive Davis の Columbia Records 社長としての職を解いて追放(?)することで、グループ全体に疑惑が波及することをくいとめる策に出ます。さらにその Clive Davis が結んだ Stax との契約を反故にし、一挙に 40% をカットし始めたのです。これによって Stax の経営は急速に逼迫し、200 人にも及ぶ従業員の給与、関連業者への支払いなどが停滞し、しかも、法廷では訴訟合戦が持ち上がっていました。
CBS が Stax を(おそらく Clive Davis との契約の不公正について)訴え、逆に Stax は(おそらく一方的なカットに関して) CBS を訴え、Union Planters Bank は Stax の差し押さえと、(おそらく財務管理の不備について?)Stax、さらに CBS、Al Bell と Jim Stewart を訴え、逆に CBS は(おそらく差し押さえによる業務妨害で?)Union Planters を起訴、といったまさに泥沼の法廷闘争の状態に陥っていきます。
その間も Stax の経営状態は悪化してゆき、ついに 1975 年には Stax のためにレコードのプレスを請け負っていた会社からの請求にも完全に支払いが不能な状態となり、この時点で数百万ドルの債権を抱えていた Union Planters Bank は銀行に対する不正行為の疑いで Al Bell を連邦大陪審に起訴しました。
さらに Isaac Hayes も Stax を訴えています。Union Planters は Stax の出版部門を「抵当流れ」として処分。
そして 1975 年12月19日、裁判所はついに Stax の「破産」を宣告。翌 1976 年の 1 月12日には、反訴も適わず閉鎖が決定し、ここに 1959 年から 1975 年にかけておよそ 300 枚のアルバムと 800 枚を超えるシングルを送り出した Stax の栄光の歴史が閉じてしまったのでした。

残っていた Stax のマスター・テープは 1977 年に債務整理のためのオークションにかけられ 1,300,000 ドルで California の Fantasy Records に買い取られています。
また、かっての Stax Recording Studios は 1981 年に Union Planters によって僅か 1 ドルで Southside Church of God in Christ に払い下げられ、同教会は 1989 年にそれを取り壊しました。

ところで Al Bell はどうなったのでしょうか?
あまり詳しくは判らなかったのですが、1980 年代には、あの the Motown Records Group の総帥として Berry Gordy とともに MCA/Boston Ventures Group への売却を手がけているようですね。その後には Tag Team というグループを発掘し、その「Whoomp! There It Is」は 5000,000 枚を売る空前のヒットを記録しています。さらに Prince にも関わったようですが、その後については見失ってしまいました。またどこかの資料で出くわすことがあったら、ふたたび追跡(?)を始めたいと思っています。

Soulsville( http://www.soulsvilleusa.com/ )は 2000 年に、跡地に Stax Museum of American Soul Music の建設を発表しました。当 bbs に投稿いただいた boony さんによれば、一昨年に現地を訪れた時にはまだ工事中だったそうですが、↑の URL で見る限り、現在ではリッパに(?)完成してるみたいですね。

長々と追い掛けてまいりました Stax Records ですが、ワタシが生まれて初めて自分で買ったホントの Blues のレコード( Albert King の Blues Power )にはこの Stax のフィンガー・ティップスをする(たぶんね?)片手のマークがついておりました。それ以来 Stax には足を向けて寝てません(つーのはウソに決まってますが)。今回はその Stax を、あえてビジネスというクールな側面から捉えてみました。ホ~ント大人の世界ってフクザツ!

なにやら成人の日ってやつみたいですね。なんのためにそんなもんがあるんだかよく判りませんが、どうも若いもんを集めて、好き放題に騒がせてやるってのがメインみたいでございます。
なんですか、騒ぐのがけしからん、なんて論調が主流のようですが、「集めるほうが悪い」!ってゆう発想は無いんでしょうかねえ?
別にやる必要も無いよな式典に呼んどいて「おとなしくしてろ」なんて言われても「え~っ?なんだよこれ!ちっとも面白くねえじゃん!」となるのは当たり前。さっさとヤメるのが正解でしょう。
それに、最近の若いモンは、なんてコト言ってるヤツらがそんなワカモノが出てくるよな社会を作ったんですからね。
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