British Commonwealth

Disc history


2004-02-08 SUN.
ここらで、アメリカと関係してくるイギリスのレコード会社のこともちょっと触れておきましょ。
2004-02-08 SUN._a0011975_2024986.gif1899 年にひとつの図像がレコード業界で使われるようになりました。
Dog looking at and listening to a Phonograph と名付けられたこの絵はイギリスの画家、Francis Barraud が 1898 年に描いたもので、それは彼の愛犬 Nipper が蓄音器の前で「当惑」している、とも見える姿を(スケッチではなく)思い出して描いたものだったそうですが、その最初の絵では当然ディスクの Phonograph ではなく、Edison のシリンダー式のものでした。
この時、Nipper は今は亡き勝手の飼い主の声を聞いているのだ、というハナシがありますが、ということは、やはりディスクではなくシリンダーなりゃこそ、のエピソードでございますねえ。
ん?でも Francis Barraud の愛犬じゃないの?前の飼い主のことかなあ?さらに、その絵は棺の上に置かれた、という資料もあるので、やはり前の飼い主の声だったんでしょね。
Francis Barraud はその絵、というか図案を何社かの蓄音器メーカーに買いとってもらおうとしたのですが、The Gramophone Company だけが、その本体をシリンダー型からディスク式に描きなおすことを条件に買ってくれたのでした。そしてそれが公式な宣材に登場したのが 1900 年のこと、と言われています。
Emile Berliner はこの図案に目をつけて、いち早くそのアメリカ国内での使用権を the Victor Talking Machine Company のために獲得しています。Victor はイギリスの Gramophone より積極的にこの図案を活用し、1902 年から登場したマークは Francis Barraud の原画に比べると、よりシンプルに「イラスト化」されたものになっており、そのすべてのレコード盤のセンター・レーベルには Nipper がクビを傾げた姿が必ず見られるようになったのでした。
当時の雑誌広告には Look for the dog(犬を探せ!)がキャッチ・コピーとして使われたほどです。

英国グラモフォンは、アメリカで Berliner Gramophone を興していた Emile Berliner がイギリスで 1898 年にスタートさせました。その 2 年後、社名を The Gramophone & Typewriter Company と変更しています。ところで、どうしたワケか、英国グラモフォンではナゼか Nipper の登場(というか積極的登用ね)は 1909 年まで待たなければなりません。そうしてようやくそれが陽の目を見るとともにいきなり主役として抜擢され、「His Master's Voice」がそのまま社名として採用されたのでした。その頭文字から HMV として知られるこの企業は、いまや極東の島国ですらそのチェーン店を展開しておりますので、その名を(意味は知らなくとも)知っておられるかたも多いと思います。

結局 Nipper 君はアメリカ国内および南米諸国では RCA Victor によって、イギリス連邦やカナダ、そして日本では HMV によって使用される、という状態になっています。
HMV がその最初の直営店舗を London で開いたのが 1921 年のことでした。しかしその HMV はアメリカの Victor が RCA に買い取られた際に保有されていた英国グラモフォン時代の株も移動しています。さらに RCA はそれを活かして英国 EMI を創設したのですが第二次世界大戦で起きた混乱で権利関係はまた変化し、1980 年代までは EMI が His Master's Voice の使用権を行使していましたが、HMV の販売チェーンはそれとは別に発展を続け、EMI が HMV の名を放棄してからは、その販売店グループが正式に引継ぎ、1998 年には HMV Media として EMI から独立(ただし 43% の株は残したそうですが)し、全世界に展開を目指す販売会社となっています。

さて、英国でもひとつ重要なのは Decca でしょう。
株式仲買人 Edward Lewis が設立したこのレーベルですが、最初に Decca がイギリス国内で蓄音器を製造し始めたのは 1914 年のことになります。そしてレコードに乗り出して Decca Records Ltd.を始めたのは 1929 年でした。
世界的な不況に傾斜しつつあった時期であったにもかかわらず Decca は業績を伸ばし続け、1932 年には Brunswick Records のイギリス支社を買い取っています。また、その Brunswick の子会社 Melotone Records( 1930 年から 1938 年まで存在したアメリカのレコード会社。)と Edison Bell Records(詳細は不明ですが、なにやらフローレンス・ナイチンゲールの肉声が聞けるレコードがあるらしっす)も買収し、そのカタログに Bing Crosby などの「売れる」ミュージシャンを加えることに成功しています。
そして 1934 年には Decca のアメリカ支社を発足させました。大恐慌以来の不況にあえぐアメリカのレコード市場において同社はたちまち強力なプレゼンスを発揮するようになります。特に、元 Brunswick のゼネラル・マネージャー、Jack Kapp の登用によって契約ミュージシャンも充実し、Louis Armstrong、the Andrews Sisters、Ted Lewis、The Mills Brothers、Billy Cotton、Guy Lombardo、Chick Webb(そ、Louis Jordan とこで出て来ましたねえ)、Bing & Bob Crosby、Jimmy Dorsey、Connee Boswell、 Jack Hylton などが名を連ねるようになりました。
そして 1942 年には「永遠のヒット」ともなった Bing Crosby の「White Christmas」をリリース・・・
この Decca は戦後(ここでは第二次世界大戦のほーね) RCA とも関係を持つようになるのですが、それはまたいずれ。

と、まあこれで一応、第二次世界大戦までのレコード業界の大体のアウト・ラインはザっと説明できたかな?もちろんド忘れしてるのもあるかもしんない。それに気がついたら、またその時にねん。
長々とワタシの道楽につきあってくださってありがとうございます。こやって自分でも確認してってるんざんす。
ま、これで今回のシリーズはいったん終ります。
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