Barbecue Bust

Mississippi Jook Band


2004-05-04 TUE.
これはまたなんともチョーシいいナンバーで、ま、見ようによっちゃあ勢いだけで押し切っちゃってるみたいなとこもありますが、よく聴くと(たぶん場の中央にマイク一本で、あとはそっからのキョリだけでミキシング(?)してるようなんで、ともかく徹頭徹尾ベース・ラインとともに「かき鳴らしてる」 Blind Roosevelt Graves のリズム・ギターのバンジョーっぽいストロークがウルチャくてかすみがち⋯)騒音の向こうの Cooney Vaughn のピアノはなかなか華麗なフレーズをフル・パワーで転がしまくっております。

まるでディキシー・ランド・ジャズみたいな(ってジャズにはさほど詳しいとは言えませんので、この比喩が正しいのかどうかはちと「?」ですが)「ご陽気」さで、ハウス・パーティなんかでこんなのやったら、みんな踊りまくるんじゃないか?っつーノリの良さでございますが、ディキシー系とちゃうのは、ブラスじゃなく Blind Roosevelt Graves の兄だか弟だか、例によって「未熟な」言語たる英語表記のおかげでまったく判らない Uaroy Graves の「カズー」でそれっぽい音を代用させてるとこじゃないでしょか?

この録音での音量的順位づけ(?)では「従」の存在にも思えるピアノですが、実際のパーティでは、たぶんピアノが他を圧する大音量で「ひとり勝ち」のハズで、ここでも音量にダマされず、聴きとってくと、やはりピアノがいっちゃん派手なことやってますね。
始まってからの 1 分間はそのガチャガチャしたインストで突っ走るんですが、そっから急にヴォーカル(つーか、かけ声、合いの手に近いんですが、一部メロディも持ったりするんで、スキャットと言えないこともない⋯か?ところどころ歌詞に聞こえないこともないのですが、大部分は「パッパラレオゥ」なんてイミ不明なご発声でございますよ)も参加して、さらに「盛り上げる」と。

このひとたちの演奏はだいたいいつもこんな調子なんですが、Skippy whippy なんて曲ではリズムがもっと Boogie Woogie っぽい骨格になったりもしてますね。
ま、基本的には Hocum 調って言うのかな?ディキシー的な「オモチャ箱をひっくり返した」みたいなガチャガチャさが「売り(?)」のよーです。

さて、日本でも翻訳されて刊行されているのかどうか判りませんが、Rolling Stone Magazine から出版された The Illustrated History of Rock and Roll ってえ書籍があるらしいのですが、なんと、それによると、この Barbecue Bust と Dangerous Woman の 2曲が 1936年に Mississippi 州 Hattisburg* でもって録音されたことをもって Rock'n' Roll の「発祥の地」としとるらしいのですじゃ。
ナニをもってロケンローの萌芽と見なすか?はひとそれぞれでいいんでしょうが、いくらなんでも、これはムリがあると思うぞ。

*Hattisburg ─ 南北に長いミシシッピー州の南部にあって、州都 Jackson から、東隣の Alabama 州 Mobile(ってゆーと Wet Willie を思い出しますねえ。⋯ってワシだけか?)をつなぐ南東に伸びる State Highway 42 のほぼ中間地点に位置し、現在の人口はほぼ 45,000 弱。また National Highway 59 で南西に向かえばこれもほぼ同じ程度( 180km 前後)で New Orleans という立地です。位置的にも、夏はかなりな高温多湿となるようで、逆に冬の降雪は 3、4年に一度あるかないか、という「寒がりさん」には天国(?)みたいなとこじゃないかと⋯?

Rolling Stone の主張では、この Mississippi Jook Band のヴォーカル&ギターの Blind Roosevelt Graves、そしてタンバリンとカズーを担当するその兄弟 Uaroy Graves による The Graves Brothers は 1929年にすでに Paramount に「rocking & Reeling な」録音をしているし、この 1936年 7月20日の American Record Company に吹き込まれた Barbecue Bust と Dangerous Woman の 2曲は「そのギター・リフや、特徴的なビートなど、すでにロックン・ロールに必要にして充分な要素を兼ね備えている」ことになるのだと。
一部のヒョーロンカはそれでナットクしてるのかもしれんが、少なくともブルースのファン、あるいはマニアは、たぶん目が点になるんじゃないかなあ。
ワタクシなんぞ、明らかにジャズよりはロック!っちゅうニンゲンなんですが、やはり(地理的にも近いせいだ!なんて主張はいたしませんが) New Orleans の、その後ディキシーランドなんて言われるよーになる「あの」音のほーにゼッタイ近い、と思うんだけどなあ。

ところで、Blind Roosevelt Graves と Uaroy Graves の兄弟二人(ま、生年月日が判りゃあどっちが兄で、どっちが弟か、だって判るんですがね)がどこで・いつ生まれたのかは判っていないようでございます(あ、ひとつだけ示唆するよな資料もございましたが、それによると Blind Roosevelt Graves は州都 Jackson の東、Hattisburg の北東、ちょうど正三角形のもうひとつの頂点をなす位置にある Meridian 近郊の Rose Hill というところで第二次世界大戦後に生まれた、なんてなっておりますが、こりゃもうダレが考えたって、んなワケゃ無いんでして、第一次世界大戦のマチガイに決まっております。だから出生地だってアヤしい、とは言えませんが、ま、こんな説もありますよん。っつー程度にしときましょ)。どうやら Mississippi デルタ周辺のジューク・ジョイントで 1920 年代から演奏して歩いてたらしく、そんな二人を Indiana 州 McComb の教会で録音したのが 1929 年のことで、この、「教会で録音している」ことでも判るよーに、この兄弟(ただし別な説では The Graves Brothers ではなく、Blind Roosevelts 名を使っていた、としています)は当初スピリチュアルズを吹き込んでいたようなのですが、そちらの方はたぶんまだ聴いたことがない(か、あるいは聴いててもカンゼンに忘れてるか?)ので、確実とは申せません。

1936 年には、州都 Jackson の家具店のオーナーでかつ Paramount のタレント・スカウトでもあった H.C. Speir が二人を発見(?)して Hattisburg でも録音させようと連れてきた、といいます。
そこで H.C. Speirは、当時、ミシシッピー大学のブルース関係の記録を担当していた司書 Ed Komara の記述、「 Hattisberg でもっとも重要なライヴ・パフォーマーであり、デルタ及びニュー・オーリンズからの中継地点でもある当地で、ミュージシャンはいったん列車を降りて彼の演奏を聴いてゆく」と書かれたピアニスト Cooney Vaughn をそのレコーディング・セッションに参加させることにしました。

そして行われたのがこの曲、Barbecue Bust と、他に Dangerous WomanHittin' The Bottle StompSkippy Whippy を含む 1936年 7月20日の Hattisberg セッションだったのです。
Mississippi Jook Band 名義ではありませんが、Document DOCD-5105 Blind Roosevelt Graves / Complete Recorded Works 1929-1936 があれば 1929 年のセッションも手に入りますよ。

ザンネンながら、この陰の立て役者 Cooney Vaughn については「ほとんどなにも」判りませんでした。彼の曲を Little Brother Montgomerry もやってる、とかそんな「それ以後」のことだけじゃなく、「それまでの」ことのほーが興味あるんですがねえ。
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