Bertha

Tail Dragger


2004-07-07 WED.

1998年の10月15日と11月 3 日に Chicago の Riverside Studio で録音されたアルバム、American People に収録された、彼にしてはややソフトかつステディなブーギでございます。
このアルバムには Billy Branch がハープで参加した(かつ、かって江戸川スリム氏がシカゴの某クラブにて目撃した、いきなり帽子をとってそのハゲ頭を露わにし、客席のご婦人方に撫でさせてバカ受けしてた、ってのはこの曲でじゃないか?と思われる)My Head Is Bald や、かの Eddie Taylor 師の名曲 Bad Boy なんてえのも収録されておるのではございますが、ここはウルフの亡霊(?)から解き放たれた、このナチュラルさ&ハードネスの「加減」が実によろしい、てなワケで、この Bertha を選びましょ。

Hound Dog Taylor の音とは対照的な、Johnny B. Moore* のやや繊細な音のオーソドックスなスライドを配し(堅実なサイドを切っているのは South Carolina からシカゴに出て来た白人で、ブルース界では、他に Hubert Sumlin しか思いつかないリッケンバッカーのギターを使う Rockin' Johnny )、ややリラックスした、ウルフの呪縛から自由になった感じで伸びやかに歌う Tail Dragger ですが、むしろ、そのウルフっぽさが好きな方にはウケ悪そうでございます。

* Johnny B. Moore ─このひとについては、えどすりちゃまのページがとっても詳しく採り上げておられますのでゼヒ見てねん
ヘンなシールが貼られたサンバーストの Gibson Les Paul STD.を弾いてます。


ソリッドなベースは Aaron Burton、ちょっとウワモノが耳につくドラムは(こいつもハゲ?) Baldhead Pete。

Arkansas 州の州都 Little Rock から南南東におよそ 70km ほど離れた Pine Bluff、さらにそこから北東に 20kmほど行ったところにある人口1000人ほどの(しかもその 88% ほどが黒人という、白人にとっては「住みづらそうな」)小さな町 Altheimer( Louis Altheimer っちゅうひとが開いた町なんだって)で 1940 年に生まれた James Yancy Jones は、ホウキの柄にワイヤーを張った「ギター」で練習にハゲんでいたらしいのですが、クルマを修理しているときに指をツブしてしまい、ギターをあきらめています。
それでも彼は Portable Radio hidden under his pillow って言いますから、夜な夜な放送を聴きまくってはブルースを「学んだ」ものでしょう。
ただ、当時の彼の仕事は、重機の整備や大型トレイラーの運転でしたから、「音楽で身を立てる」、にはほど遠い生活だったようです。

1960年代、Chicago に出て来た彼は、ブルースの嗅跡を追って(?)みごと Howlin' Wolf のもとに辿りつき、それからはウルフにべったしで、その歌い方もまさにウルフそのもとなって行ったのでした。当初、彼は "Crawlin'" James と呼ばれていたようですが、そんな彼に "Tail Dragger"っちゅう名前を付けたのはウルフだったそうです。またウルフは彼のことを、将来、オレの場所に替わりに座るのはコイツだ、と言ったとか( One day this boy gonna take my place )。
それでも、まだ彼はブルースだけで喰っていけたワケじゃなく、毎度お馴染みのデイ・ジョブの傍ら、そのような活動を続けていたようです。

おそらく 1980年代からシングルのレコーディングは始めていたようですが、アルバムでは 1996 年の Crawkin' Kingsnake がファーストでしょう。
冒頭でも書いたとおり、この American People は、1998 年の秋に Chicago で録音された彼のセカンド・アルバムということになります。
・・・と書いてみると、ま、ブルース界じゃフツーのパターン、とも思えるのですが、実は、途中でちょっとしたことがありまして。

マメに板をご覧になっている方なら御記憶に残っておるやもしれませんが、えどすりちゃま情報で、重要なことがひとつあったんですねえ。

それは 1993 年のこと、あるブルース・フェスで上がった収益の配分を巡って口論となった末に、彼は Boston Blackie というブルースマンを射殺してしまったのでございます。
ただ、検察側も、この事件に関しては「偶発的な」要素が大きく、単に威嚇しようと銃を向けたものが「誤って」発射されたものである、との見解に傾き、通常の殺人罪の適用は見送ったため、いわゆる刑務所ではなく、Illinois 州立の矯正施設での 4 年間という判決が決定したのでした(つまり「非行中年?」扱いでんな)。
そして明日からはそこに入るぞー!っちゅう夜に、えどすりちゃまは彼のライヴを見ておった、っちゅうワケですね。そのえどすりちゃまの描写、「眼光鋭く歌う Tail Dragger 」ってのが実にいいです!

もちろん今じゃリッパに更正して(?) Chicago のウエスト・サイドのクラブでギグにハゲんでおられるようでございます。
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