Look On Yonder Wall

Jazz Gillum


2004-10-01 FRI.


この曲に関しては Elmore や、昨日の Junior Wells など、様々なカヴァーが存在し、それぞれ、けっこーハードなテクスチュアに仕上げるのが「フツー」っちゅう感じがいたしますが、それらの元となったこの Jazz Gillum のテイクは、ピアノの Big Maceo のおかげ(?)か、いささか「ゆったりとした」、あるいは「ホンワカとした」仕上がりとなっておりますねえ。

と言いつつも、ま、知ってる方は知ってると思いますが、この曲のオリジナルは Jazz Gillum ではございません。
この録音( 1946 年 2 月18日)に先立つことおよそ 4 ヶ月、1945 年の10月22日に行われた James "Beale Street" Clark の COLUMBIA への二曲の吹き込みのうち、Get Ready to Meet Your Man ( CCO 4464。カップリングは C 4463 Love Me Or Let Me Be 。ナンバーの前後で判るでしょうけど、いわゆる B-Side 扱いのナンバーで、COLUMBIA 30005 としてリリース)が実は原曲なのでございます。

自身によるパラけたピアノを伴奏として歌い出すと、まとわりつくよなクラリネットがオブリを入れるっちゅう、Elmore の同曲とはそりゃもうエラい違い!ハンパにジャズっぽい、初期のブルース的なアレンジで、その歌詞さえ聞かなけりゃとても Look On Yonder Wall とは思えないよな仕上がりになってるんですねえ。
つまり逆に言うと Jazz Gillum の演奏によるこの曲もまだまだ James Clark の延長線上にあって、それでもまあブルース的、と感じさせてくれるのはクラリネットのかわりに彼自身によるハープとギターがちょいと割り込んできてるってとこが「進化」と言える⋯んでしょうか?
まあたった四ヶ月しか経ってない時点では、変化ゆうてもこの程度、っちゅうことになるんでしょうけど。

それが Elmore によって「みなさまご存知の」あの Look On Yonder Wall になるんですからその変貌ぶりがスゴいですよ。

ところで Colin Escott(カナダのトロント在住の音楽評論家。ジェリー・リー・ルイスやハンク・ウィリアムズについての伝記、また SUN RECORDS、Hi RECORDS についての評論などがある。またレコード各社にライナー・ノーツを提供) によれば、James Clark の原曲 Get Ready to Meet Your Man はさほどヒットしたワケではなく、むしろ、この Jazz Gillum の、タイトルも Look On Yonder Wall と変えた録音が存在したおかげで、多くのブルースマンによって採り上げられることとなったらしいです。

とゆーワケで、"Big Maceo" Merriwether のピアノ、Leonard Caston のギター、Alfred Elkins のベースからなるこの録音、ちょっと Jazz Gillum の「あまりにプリミティヴな(?)」ハープにズッコケそうになるけど、その素朴(?)なヴォーカルがケッコーいいんですよ。

Jazz Gillum については、昨年12月16日の Key To The Highway もご欄になってくださいませ。Biography もそちらで扱って(?)おりますから。

ところで、この Jazz Gillum について、国内の某サイトの掲示板において

日本では彼のことを「ジャズ・ジラム」と呼んでいるけれど、どうもアメリカでは「ジャズ・ギラム」と言うようだ

という投稿があって驚いたものです。
かっての Zydeco を、アメリカ人が「ザイデコ」と発音していたから、正しくは「ザディコ」ではなく「ザイデコ」ではないのか、という投稿が物議を醸したことがあった一件を思い出してしまいましたよ。
およそ、そこでいう「アメリカ人」ってのは少なくとも、ルイジアナ付近の南部出身のかたでしょうか?

たとえば、ここ弘前という街の名前ですが、東京に住んでいたころ、「ひろまえ」と読むひとがけっこう多かったものです。
下宿時代に隣の部屋にいた山陰出身の大学生も「ひろまえ」と読んでいましたっけ。
さて、そんなひとがアメリカに行ったとしましょう。
そして向こうで、「日本研究家」に「これはなんて読むのか?」と「弘前藩」なんて文字を見せられたとき、これは「 hiromae-han 」と読みます、なんて言ったら、そのアメリカ人は「日本ではこれを hiromae-han と読んでいる」と思い込むのは「当然」です。
Zydeco を知らないアメリカ人は、弘前を「ひろさき」と読むのを知らないニホンジンより「う〜んと」多いでしょう。
語源からいえば Les Haricot は、しいてカタカナ化すれば「ザリコ」に近いものをクレオールでは Zydeco と表記して発音はザディコに近くなる。ただしそれは南部のフランス系言語の名残であって、大半のアメリカ人は「そんなこと知るワケがない」のですよ。
アメリカ人にこの単語を見せたらザイデコと言ってた、っての「弘前」って漢字をニホンジンに見せたらヒロマエ言ってた!ってのと同じ次元のカン違いなんだよね。

安易に、アメリカ人に見せたら「こう読んだ」ってのを「意外なハッケン!」と騒ぐのは危険です。

さて、では「ジャズ・ギラム」の一件は?
こと人名に関しては、実際に彼、William McKinley Gillum の血縁者が「そう発音していたかどうか?」が唯一の確実な証拠となります。
生前の彼と「直接に」交遊があった人士の「実際に彼は自分のことをそう名乗っていた」という証言が必要でしょう。

そういう「確実な」証人もだいぶ少なくなってきてるとは思いますが・・・

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