In And Out

Carlos Johnson


2004-10-22 FRI.



いまさらおことわりするまでもないことではございますが、ワタクシ、生まれついてすぐブルースの洗礼を受け、以来、ブルースだけをココロの友にここまで生きてきた⋯ なんてゆー人生を送って来たワケではございません。
クリフ・リチャードの映画を見たのを契機に the Shadows にハマり、そっから「元祖(?)」リヴァプール・サウンドの the Searchers に流れ、そして the Rolling Stones に「ロック」の香りを感じ、さらにもっとカゲキに見えた the Blue Cheer や Velvet Underground なんてゆう「さまよい」の中でブルースにめぐりあい、一気にそれまでの「満たされずにいたもの」を埋めてもらったのでした。

しか~し、やはりロック時代の残滓が時にフラッシュ・バックし、バリバリの '50-'60 年代シカゴ・ブルースのマニアからは「な、なんだと〜!(ん?どっかで聞いたよなセリフ⋯)」とお叱りを受けるかもしれませんが、やはりあの時代のシカゴ・ブルースだけでは埋めきれないものの存在を意識することがあります。

ブルースで培ったクリシェはそのままに、タマには「違う音楽」をやってみたい!というヒソカな野望がココロの奥底ではくすぶっておるのでございますよ。
そんなときなんですねえ、この Carlos Johnson の IN And Out が背中から忍び寄ってきていたのは!
やはり、このアルバムをアタマから聴いてって 5 曲目に入ったとたんに感じるブレイク・スルー!!

そうそう!この「全体像」なのよ!彼が出現させようとした、またひとつ別な「世界観」。

多少ゴタついてるけどこのレア(稀って意味じゃなく「ナマ」ね)なベクトルがそのまま彼の自己イメージの向かう方向を示唆しているようで、ここに投射された彼の「音楽」の「傾き加減(かって、小林秀雄がモーツアルトについて語った意味においての重心の移動ね)」が、とってもナチュラルに表現されてるよな気がします。

彼のコテコテの(?)ブルース・ギターを期待する向きには、ひょっとするとウケは悪いかもしんないけど、ワタシがいっちゃん気に入った曲がこの In And Out でございます。
だってとっても楽しそうなんだもの。こんな Carlos Johnson も好き!

Carlos Johnson の生い立ちなどについちゃ、この CD のライナーにインタビューと、その和訳も載っておりますが、いちお〜⋯
彼は 1948年 1月17日、Chicago の Cook County Hospital で、建設作業に従事する父 Warren と、病院に勤務するのではなく、個人に雇用される看護婦であった母 Barbara との間に生まれています。
母はブルースとカントリー・ミュージック、父はジャズとクラシックを好む、という家庭環境で育ったようですが、そんな彼に大きな影響を与えたのは、母とともに聴いていた B.B. King のギター・プレイで、さっそく自分のギター(子供用のオモチャ)で真似ていたとのことです。

12才の時にはすでに近所のガキ・・・ うっぷす、おトモダチと一緒にバンドを作り、いわゆる '60年代ロック、例えば Led Zeppelin や Jimi Hendrix、さらにはビートルズなんてのも演ってたとのことですが*、それで近隣のバーベキュー・パーテイに押し掛け(?)ちゃあ 10ドルっつ貰ってたりしたそうで。

* ─ 1948年生まれで 12才ならば 1960、あるいは 1961年なワケですが、当時のアメリカにおけるミュージック・シーンのトピックを挙げていくと、まず有名な Ray Charles の Georgia on My Mind のヒットが 1960年です( 11月14日に全米チャート 1位)。
他にはプレスリーの It's Now or Never (ただしプレスリー本人はこの年の 1月14日、軍務についてますが)、ロイ・オービソンの Only the Lonely 、ダリダの O Sole Mio 、日本では坂本九のカヴァーで知られるジミー・ジョーンズの Good Timin' 、これも日本ではカヴァーがヒットした the Drifters の Save the Last Dance For Me 、さらにこれまた日本じゃお馴染みヴェンチャーズの Walk Don't Run なんてのもこの年でした。
さらに以前、拙日記でも採り上げました Ella Fitzgerald の Ella in Berlin がリリースされた年でもあります。
じゃ、彼が言うビートルズは?ってえと、まだ Stu と Pete も含む(つまりリンゴはいない)五人でハンブルグでデビューしてたころで、当然まだ無名のまま。
続く 1961年には the Supremes が Motown Records とサインし、ヒットではパッツィ・クラインやコニー・フランシス、さらにジーン・ピットニィなんて名前が目立ちますね。
曲では「ライオンは寝ている」がこの年。そして Dick Dale の Let's Go Trippin' 、デル・シャノンの Runaway 、さらに寿家界隈で(?)とみに有名な the Shirelles の Will You Still Love Me Tomorrow もこの年なんですねえ。
あ、そー言えば Bill Evans Trio の Sunday at the Village Vanguard のリリースも 1961年でした。え?なんで急に Bill Evans、って?でへへ、そりゃあ Scott LaFaro ですがな。ま、そっちに行っちゃうと長くなるのでヤメときましょ。

てなワケで Carlos Johnson の言う Led Zeppelin も、もちろん Jimi Hendrix だって 12才当時では「出現」しておりません。
よってこれらのナンバーを演っていたのは、もっと後になってからのことでしょう。

さてハナシを戻しまして、高校生の頃には Nut Cracker Swit と Seven Peace という二つのバンドを持っていた(と語っていますが、原文では和訳にある「ソウル・ミュージックの」に該当する単語が無い!と思ったら、なんと WEB 上の原文と思われた資料には「その部分」が欠落しておることを CD に付属してるライナーと突き合わせて「気がつき」ました。
うげげ、なんでこゆとこを「カット」するかなあ?)そうです。
あ、それとジャズも父親の影響でか演奏していたみたいですね。

1970年代になてからはかなりブルースに関わり始めたようで、Billy Branch に出会い、Koko Taylor や Junior Wells、そして Son Seals などと演奏するようになりました。またこれは江戸川スリムさまのとこで本人が語っているエピソードですが、おそらく 1972年か 1973年あたり、これも青森のブルース・フェスティヴァルに二年連続で来た Bonnie Lee と一緒に「ジャズを演ってた」けど、ブルースの方がカネになるから、と言うんで二人揃って「転向」したんだとか。

ただひとつ、What's Your hobby? という質問の答えが実にいい!
Girls and fishing.・・・ぎゃはははは!いいぞ~!

基本的に、CD はまずヘッドフォーンで聴く、という習慣があったのですが、Carlos Johnson の新しいアルバム(そのタイトルも上で採り上げた曲と同じ In And Out )は、あ!と気付いて(?)ワタクシのメインのオーディオ・システムから出してみました。

独 BRAUN のソフト・コーンのスタガード・ダブル・ウーファー、そしてソフトドーム・スコーカー&トゥイーターっちゅうマイ・リファレンス・システムでございます。

買った当初は繊細な描写力で、スタジオ・モニター(までは行かないんですがね)みたいな解像力を誇ったこのスピーカーも、さすがに寄る年波でカドがとれ、やや丸みを持ち始めたのですが、それでも、その豊かな「鳴り」で聴くと(こんどは曲の方の、ね。太字の時はアルバム、っちゅーことで統一してあります。斜体は、その日に採り上げてる以外の曲やアルバムざんす) In And Out が実に「いい」んですよ!

ヘッドフォーンで聴いたときにも、In And Out でリピートかけちゃいましたが、BRAUN から立ち現れる音像として「場」を満たし始めると、もう、えも言われぬ「弾力」がホントに快いのでございます。

なんだか久しぶりに、周囲を飛び交う「音」としてプレゼンスのある音源に出会ったよな気がするぞ。

な〜んて書いてますが、ええ、判ってますよ。おっそっらっくっ(?)ニホンの自称ブルース・マニアのみなさまには「きっと」ウケが悪いんだろな⋯って。

さて、こっからは 2007-03-16 のライヴのあとで書き足していますが、Carlos Johnson の東京でのライヴでは「なんと」バックがローラーコースターズでした。
となれば、あんなモタモタのリズムしか出せない面々じゃ Lisa なんて出来るハズもなく、とうぜん In And Out だってムリ!
まあ、遅れてるニホンのブルース・マニアなんぞに、アルバム In And Out のホントのスゴさなんぞ判るハズもないから演らずに(ってよりもバックがクソ過ぎて「演れずに」が正しい⋯)正解だったのかもしれん。

いまだにシカゴ・シカゴゆってる連中ってファンクっぽいベキバキなリズムには不寛容なんでしょ?ちゅうか理解できないトンマだらけなんでしょ?

いやもうね、ライヴ中に何度か Carlos Johnson が後ろのメンメンを振り返って「なんだそれ〜!お前らミュージシャンじゃねえのか?」てな呆れた顔でガン飛ばしてましたっけ。

この表題曲 In And Out もそうだけど、特に Lisa なんてあのバックじゃ「出来るワケも無く」化石みたいなニホンの自称ブルースバンドのミジメさにアキレちゃった一夜でございましたよ。

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