BassBase 600 : 2004-11-20 SAT.
1967 年に結成された、この、まったく独自のサウンド・ワールドを造り上げたグループ、Sly & the Family Stone ですが、とあるところで、「 James Brown がファンクの革命を起こし、それを完成させたのが Sly だ」なんて解説を読んだことがあります。
ま、ワタクシとしちゃあ、「 J.B. はファンクを改革したが、Sly は Sly & the Family Stone というまったく新しいジャンルを、ブラック・ミュージックの中に造り出したのだ」と言いたいですね。
別に J.B. を貶めるつもりはないですが、J.B. がやっていることと Sly のやっていることってのは「位相」が違い過ぎるんですよ。
ま、なんでも、どっかに分類しなきゃ「落ちつかない」のかもしれないけど、やはり中には、ジャンルでは語れない、それこそ、そのアーティスト名そのものが「ジャンル」ってのがいると思うんですよ。
Louis Jordan だってそうでしょ?既成のワクで説明しきれるもんじゃおまへん。あれは「Louis Jordan」っていう音楽なんですよ。

同様に Sly の音楽を細切れに裁断して分析してみたところで、普遍的な音楽言語で「この音楽はいったいなんなんだ?」ってことが語れるワケはありません。
Sly 語に慣れ親しんで、その世界に浸ってみなければ判らないことって多いんじゃないのかなあ。

そして、その Sly & the Family Stone の世界を造り上げるにあたって、とても大きなプレゼンスを持っていたのが Larry Graham ではなかったでしょうか?
いわゆるファンク専門(?)のベーシストからの評価では、彼以上に重要なプレイヤーってのもいるのかもしれません。
しかし、トータルなサウンドの中におけるベースの意味や、それ以上に「ベーシストの意味」として考えた場合、彼がただ「(テクニック的に)スゴいベーシスト」というのではなく、まずミュージシャンとしての資質としてユニークな存在なのだ、と考えています。

Larry Graham は Sly と同じように、生まれたのは Texas 州でした。
メキシコ湾に近い、Dallas から見て 5 時の方向、Sly の生まれた Denton からはおよそ 400km 以上も離れている Beaumont で、1946 年 8 月14日に生まれています。とは言っても、そこにいたのは彼が二才(!)になるまでだったそうですから、「三つ児の魂、百まで」ってので行くと、彼の精神世界にとっては、むしろ、移ってきた街、San Francisco の対岸の Oakland こそが揺籃の地、と言えるのかもしれません。
ギターを弾く父と、ジャズ・ピアノを弾く母のもと、彼はまずドラムとタップ・ダンスを習い、次にクラリネット、ギター、サックスにとりかかったそうですから、そこら、ベースしか弾いてない「純粋ベーシスト」とは、おのずと世界観も違ってくるワケですねえ。

その彼が 15 才のときに、クラブに出演していた母のピアノをメインに、彼がギター、そして他にドラム、というトリオで演奏していたらしいのですが、そこで彼はオルガンの足踏み用のベース鍵盤を見つけ、ギターを弾くかたわら、足ではベースを入れてた(器用なやっちゃ!)ら、その鍵盤が壊れちゃったらしいんですね。そこで、どーも、サウンドをトータルに見て、この場に必要なんはギターよりもベースなんじゃないか?と考えた彼はベースに転向したもののようです。
だよね~。ジャズにギターは要らん!(なんてまた物議を醸すよなこと書いちゃいましたねえ。ま、言うまでもなく、これはジャズの「マニアじゃない」ワタクシがほざいているだけですから、「正しい」マニアのみなさまは「フフン」と鼻で笑ってやってくださいませ。ご投稿は無用です)
最初はベース鍵盤が直ってくるまで、と思ってたらしいんですが、いっこうに修理される気配もなく、ま、それでやむなくベースも買ったらしいんですが、彼としては、ベースをフツーに弾く気はさらさら無かったみたいで、「だって、俺はギタリストでベーシストじゃない、と思ってたから他のベーシストからどう思われようがへーきだった」・・・う~ん、それが良かったんですねえ。まさに世の中、なにが幸いするか判りません。
そうしてるうちに、こんどはドラムが抜けてしまい、彼はリズム・セクションとして、よりパーカッシヴなプレイをするようになっていったらしく、そこで編み出されたのが親指で弦を叩く奏法だった、と。

そんな、やむにやまれぬ事情がバック・グラウンドにあっての「あの音」なワケで、そこら、日夜、寝る間も惜しんで切磋琢磨し、いかなベーシストでも目を見張るよな「すんげえ」プレイを開発せんとしてる「スーパー」・ベーシスト「じゃない」ってとこが逆にスバラしいんですねえ。だから彼のベースを聴いてても、テクニックに淫してないんですよ。
そして、そのように、あらゆる楽器のリズム楽器としての側面をフルに活かす、というコンセプトは、多少のアレンジを加えつつも、Sly & the Family Stone のサウンドに具現化されてるよな気がしませんか?
ワタシなぞ、Thank You のベース、ギターのリフ、ブラスの下降メロディ、などどれもが(もちろん「音高」がある以上、メロディ楽器でもあることは当然なのですが)リズム、あるいは半可通が濫用したがる「グルーヴ」なんてえコトバのために一丸となって「ちゃうこと」やってる(なんて言うと矛盾してる、って思う?へっへっへ、たぶん、Sly が好きなひとなら判ってくれるんじゃないかな?)とこに、このイノヴェーターの凄さがあるのだ!と言いたくなりますねえ。

てなワケで、ま、もちろん Sly & the Family Stone にとっては、どのメンバーもそれぞれに重要な位置を占めている、とは思いますが、なかでも、この Larry Graham の存在は、単なる「ベーシスト」というポジションを超えて、全体のサウンドをも左右するような、もっとも傑出したタレントであった、と考えております。
Larry Graham 無しに Family Stone 無し。(ま、逆もまた真なり、ではございますが)

ところで、Larry Graham の使用楽器は、ってえと、ピアニストだった母とのトリオ時代、最初に買ったベースってのが「古い St. George 」と語っているようですが、それってメーカーなのか、店名なのかもはっきりしません。
続いては Fender の Precision と Vox のベース(型式不明です)を使用し、またその後、Family Stone から Graham Central Station まで使用した Fender Jazz Bass があります。
しかし、彼はそのベースを改良(?)すべく日本の Moon に特注して作らせた「純白」の Jazz Bass スタイルのカスタム・ベースを最近では専ら使っているようですね。
この Moon Larry Graham Special は二個の Bartolini PU(ネック寄りの PU はストラトのリア PU みたいにスラント・マウントされてます)を搭載し、GHS のライト・ゲージ Bass Boomer が張られています。
足元には Morley のヴォリューム・ペダルと A/B スイッチ・ボックス、そしてそれぞれにつながる Roland の Jet Phaser と Morley FUZZ Phaser という構成だとか。

アンプに関しては Sly & the Family Stone 時代には SUNN を使っていましたが、その後、Fender 各種や、Acoustic 360 を経て、最近では Hughes & Kettner のBassBase 600( 650W 出力) Hybrid ヘッドに BC 410 あるいは BC 215 キャビネットを組み合わせて使っているようです。

ということで、今日は Larry Graham のことだけで終っちゃいましたねえ。


permalink No.942

Search Form