Statesboro Blues

Blind Willie McTell


2005-01-13 THU.


Georgia 州の州都 Atlanta から 4 時の方向におよそ260km ほどでしょうか、大西洋に向かって 440 号線を辿ってくると Statesboro の街があります。
今でこそ人口およそ 22,000 程度の Georgia Southern University、Ogeechee Technical College という二つの学校を核とした「学生の街」となって、秋から初夏までは学生たちで賑わい、夏の期末休みには火が消えたような佇まいとなる、まさに文教都市(?)となっているようですが、20 世紀の初頭には、周辺から搬出されてくる木材の集積と積み出し、さらに松類から得られるテレピン油(松の木から採れる精油や、柑橘類の果皮に含まれるオレンジ油、また最近では檜からのヒノキチオール等、植物由来の原料から採取される油脂類の総称。森林浴の効果をもたらす主成分とされるフィトンチッドなどもこれに含まれ、殺菌作用や、空気の浄化作用もあると言われ、「テルペン類」と分類されるようです)の産地として、今とは違った賑わいがあったようです。

Blind Willie McTell こと Willie Samuel McTell は Georgia 州の、Augusta の 30マイルほど西の Thomson あたりで生まれ、酒とギャンブルびたりだった父 Ed McTell が産まれたばかりの彼と母を置いて去ってしまい、母子は 1907 年には、この Statesboro にやってきました。
この街で彼は母から、そしてこれも Statesboro にいた Seph Stapleton というひとからギターを教わったようですが、その Seph Stapleton に関する詳しい情報には辿りつけませんでした。
Blind Willie McTell にとっては、この Statesboro という街がかなり大きな意味を持っていたのかもしれません。

で、この曲を採り上げたのは、昨日の 34 Blues に続いて、ここでも、「ある数字」が出てくるからでございます。

Big Eighty left Savannah, Lord, and did not stop
You ought to saw that colored fireman when he got that boiler hot

Big Eighty!・・・ただしこれはクルマではなく、次の行の Fireman(釜炊き人夫?)と boiler hot で判りますように、Class 80(正確には 0-8-0) Steam Locomotive、つまり蒸気機関車のことでございます。
内陸の Statesboro から、最近、小説でも有名になった大西洋に近い美しい街 Savannah まで材木を運ぶ列車を引く SL か、と思いましたが、歌詞の上ではその Savannah を「出て行く列車」になっておりますね。

Class 0-8-0 のこの数字はおそらく動輪がどうのこうの、っちゅ〜分類記号だと思われるのですが、さすが、アメリカの SL にまでは知識が及びませんで、なんのことやらさっぱり、でございます。
SL でも「 2C1(いわゆるパシフィック型)」でしたら 2軸の先輪、3軸の動輪、1軸の従輪、という構成を現しておるのでございますが、これをアメリカでは 4-6-2と表記していたことを考えると、0-8-0という表記はひょっとすると Mallard 型(おフランスの A. Mallard の 1884 年の特許に基づく設計)の、先輪・従輪ナシ、動輪は 2軸づつの台車が関節を介して連結され、ボイラーで発生した蒸気はまず後ろの台車のシリンダーに送られ、さらにそこから関節を介して左右に「多少」可動する前の台車のシリンダーに送られる、という、いわゆる「複式シリンダー関節構造」を意味しておるのやもしれません。
この方式は動輪の数が 4 軸 8 輪と多いため「牽引力」にすぐれ、それこそ多重連結された木材をたっぷり積んだ貨車をむりやり(?)引っ張って行くのには向いていました(しかし、その動輪の直径の制約などから速度は期待できず、その蒸気のとりまわしやらが複雑な構造となるために、保守点検がたいへんで、あまり普及はしなかったようです)。
この Class 0-8-0 ってのが、おそらく Mallard 式機関車ではないかと思うのですが、確実な資料にはまだ出逢っておりません。ただ、0-8-0 は 1898 年から 1937 年まで作られていたらしく、どうやら総計 27 台が作られ、うち 12 台が東海岸の Atlantic Lines に投入された、と。
おそらく作られたのは Philadelphia の The Baldwin Locomotive Works で 1901 年以降の、シリアル・ナンバー 1301 から 1306 の間のどれかでしょう( 1300 の存在も知られていますが、これだけは Mexico に「行った」のが判明しています)。ついでながら 1912 年製と思われる Baldwin 社の SL が、日本の明治村に一台あります。

さて、めちゃめちゃ脱線しちまいましたねえ。鉄道に脱線は禁物でございますが。
この Statesboro Blues、Yazoo の解説によれば、ドロップ D チューニングで、キーはもちろん「 D 」。あくまでもオーソドックスな 12 小節のブルース進行ですが、12 小節目にドミナントを入れずにトニックのまま、次のコーラスに入って行きます。
収録アルバムは BLIND WILLIE McTELL 1927-1933: The Early Years Yazoo 1005で、このアルバムには Broke Down Engine Blues や、Georgia Rag 他も収められております。

今日、知人から面白い説を聞きました。
ベッド(Bed)をベット、バッグ(Bag)をバック、ホットドッグ(Hot Dog)をホットドック、ルース(Loose)をルーズ、ブルースをブルーズてな具合に「濁る・濁らない」を逆にしてるのは「関西」の特徴なんだって。
ほんまかいな?
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