Rising River Blues

George Carter


2005-09-12 MON.


この George Carter も前に採り上げたのが 2003 年の 12月 2 日ですから、もうちょいでまる二年っちゅう、かなり「お久しぶり」ってワケでございます。
前回は Hot Jelly Roll Blues でしたが、今回の Rising River Blues も、タイトルこそはブルースですが、いわゆる定型にはのっとっておりません。
自由気ままにギターをつまびき、それに歌を乗せていく、まさに吟遊詩人のごとく、語るが如く、サラサラと流れていくこの世界は、例えば 1950 年代のシカゴ・ブルースなんてのと「まるっきり」血縁関係は無さそうに聞こえますよね。
ま、タマにはこんなルーラルなんもまたよろしいんじゃないでしょか。

実際に録音年時も 1929 年(リリースも同年四月ですから二十年ほども前ですね)
Rising River Blues / George Carter : Paramount 12750。
センターレーベルには Vocal. Guitar Acc.(つまりギターの伴奏) として George Carter の名が記されているのみ。あ、そうそう「いっちお〜」ELECTRICALLY RECORDED、つまり電気的吹き込み、の表示があります。録音場所は Wisconsin 州 Port Washington の「 The NEW YORK RECORDING LABORATORIES 」⋯
パラマウントについては Blues After Dark のコンテンツ、REMARKS に含まれる Paramount Records でも書いていますが、

全米屈指の大都会(人口で第三位)である Chicago という巨大な消費地を核に据えて、南は Indiana 州 Gary あたりから、北は Milwaukee あたりまでが、充分にその「経済圏」である、と言うことが出来るでしょう。
その Milwaukee よりもさらに北、Chicago からはおよそ湖岸伝いに 170km、というところに Port Washington という街があります。
Paramount はもともと Wisconsin Chair Company つまり Wisconsin 州 Port Washington および Grafton で廉価な家具や学校に納入する学童用の椅子などを作っていた家具製造会社なのですが、Port Wasgington を襲った 1899 年の「大火」からの復興を急いでいた 20 世紀初頭の企業努力の中、Edison Co. のために蓄音器のキャビネットを手がけるようになって「レコード産業」と関わりを持つようになり( 1914 年から、と言われています)、1915 年の末には自らの手になる Phonograph「Vista」を製造販売する the United Phonograph Corporation をスタートさせています(ただし、この試みは成功した、とは言い難いようですが)。
1913 年にイギリスから流れて来て、Wisconsin Chair Company で蓄音器を立ち上げる際にそれを担当し、さらに追求(?)するために一時 Edison 社に行っていた Arthur C. Satherly( Bristol の出身ながら、通俗小説が扱う「西部」に憧れて渡米してきたもののようです)が戻って来たこともあり、さらに一歩踏み込んで、1917 年( 1918 年としている資料もあります)にはそのレコード盤も作り出すようになり、Fred Dennett Key に率いられたその部門を Paramount Records としたものです。
その録音とプレス作業は Wisconsin Chair Company が New York に作った子会社、と思わせて、実は Wisconsin 州 Port Washington の同社敷地内にあった The New York Recording Laboratories, Incorporated( 1917 年から 1932 年にかけて活動)で行われていました。
ただし一部の資料では、ごく初期の録音は、実際に New York の Broadway 1140 に「あった」 New York Recording Laboratories' Studio で行われた、としているものがありますので、録音スタジオだけは「ホントに」 New York にあった時期があったのかもしれません。
そうして録音された作品は Paramount を始めとして、Broadway、Famous、そして Puritan という合計四つのレーベルからリリースされています。
Paramount はいわゆる「電気的吹き込み( Electrical recording )」への移行に遅れをとり、1926年の秋にようやく Marsh Laboratories の手を借りてそれが可能になりました。しかし Chicago の East Jackson Avenue 64番地の Lyon & Healy building の 7階にあった Marsh Laboratories 自体は1927年に経営シンジケートに身売りされており、それ以来あまりヤル気の感じられない Marsh Laboratories を Paramount Records は1929年に「切って」 Gennett に鞍替えをしてしまいます。


さすがにセンターレーベルも電気的吹き込みの技術が Marsh Laboratories によるものか Gennett の技術によるものか、までは書いておりません。ただ Discogs によれば
Both sides were recorded ca. February 1929 in Chicago, IL. となっています。

Chicago での Genett の場合「電気的吹き込み」自体は 1925 年から試みていたようですがシステム自体の完成度や音盤の材質の問題などからいったん手を引き、RCA の技術供与を受ける 1927 年に電気的吹き込みに帰って来ていますから、録音場所を Chicago とすると、East Jackson Avenue 64番地にあった Marsh Laboratories でのカッティング、としたいところ⋯なんだけどセンターレーベルの記載じゃ Chicago ではなく、Port Washington ってなってるのが「どっちにしても」符合しない!

まあ、そこらは戦前のハナシで、Paramount 自体が消滅した(見かけ上、復活はしてるけど正当に継承されたものではない)企業であるため、正確なデータにたどり着けないんですよね。伝聞だらけだったり⋯

さて Rising River Blues に戻って、ギターに感じられる不思議な陰影は YAZOO の解説を信じれば、一般的なコードであるセヴンス系ではなく、サブ・ドミナントである A で 6th とした A6( A、C#、E に F# の音を加えたもの。)にしているせいかもしれません。
この耳慣れない和音が良くも悪くも、独特の世界を演出しているように思えます。
そしてこの George Carter、やはり資料がまるで見当たらず、前回の『George Carter については 1929 年の 2 月ころに 4 曲( Ghost Woman Blues / Weeping Willow Woman、Rising River Blues / Hot Jelly Roll Blues )を吹き込んでいる、というのが知られている程度で、YAZOO のライナーでも「おそらくカポタストを使っていると思われる」とかコード・プログレッションについて記述しているだけで、そこには出身地すら記載がありません。』ってのを補強する記述にはまったく辿り着くことが出来ませんでした⋯

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