U1885 in London

Magic Sam


2004-04-27 TUE.
えー、みなさま、たいへん長らくお待たせいたしました。ってダレも待ってないっちゅーの!
昨年の暮れもおしつまった12月29日と、その翌日 30日と連続で採り上げました Magic Sam in London の「あの」アヤしい一見レス・ポール・カスタムでございますが、ついに突きとめたのでございます。

あの時点で「これは Gibson の製品ではない!」と断定する理由として挙げた諸点をおさらいしますってえと(え?んなもんいーからケツロン早く言え?んー、それじゃツマんないでしょ、こちとらモッタイつけたいんだもんね)、まず第一に・・・

チラっと見えたヘッドのロゴの「見かけ」がちゃう!ナゼか g なら最初の文字なのに、第二文字が下に伸びています。しかも Gibson ではサイゴの n の右の垂線が下に伸びてなきゃイケナイのに、下に向かって伸びているようには見えません!

ネックについては、ポジション・マークが17フレットまでで、ホンモノなら有るハズの19、21フレットにポジション・マークが無く、さらにボディ側の終端が Gibson では直線的に切断された「角張った」形状であるのに対し、角を丸めたラウンド・シェイプになってるし、その上「子持ち」多層プライのコッテリしたバインディングが本来なら切断面であるはずの PUに接する側にまで回り込んでます。
しかも、一瞬だけ、ギリギリで見えるボディ・バックに、ボルト・オン・ネック( Gibson ならセット・ネックなのでゼッタイにあり得ない)であるショーコとなるハズのクローム・プレートの輝きが見えたよな「気がする」(つまり、こいつだけは「決定的」じゃおまへん)んですよ。

そしてボディ自体も、カッタウェイされた側のホーンの形状がダルである点、またカッタウェイされてない方もカーヴがどことなく Gretch 寄りの形状に見えるよな「気がする」んですわ。

まず最初のロゴ・マークが気になりました。モンダイは第二文字の右側が下に伸びている、という点なのですよ。最初の文字は O か U、あるいは Cl か Ll の可能性もあります。だとすると、続く文字で下に伸びるとすると g、j、p、q、y あたりですが、降りた線の向きからすると q 以外はダメそう。でも q もなんだかちゃうよな~、ってえとこで前回はザセツしてしまったのでございますよん。

しか~し!Gibson のロゴを見ててヒラメキました!んっ、んんんっ!そう、「ん」ですよ!サイゴの「 n 」!「 Gibson ではサイゴの n の右の垂線が下に伸びてなきゃイケナイのに~」ってトコですよ!もし、その変形した n をパクってたとしたら?
おおお!ここでギモン氷解!マチガイ無い!Univoxだっ!

けっけっけ、そうと判れば後はカンタン、さっそくUnivox を徹底調査!
そしてあっけなく発見いたしました。Univox ユーザーのとこに Earl Hooker の名前!それがいつもなら曲名になってるハズのタイトル前半の U1885 っちゅー型式名の「なんちゃってレスポール・カスタム」なのでございますよん。

上の以降で羅列した各点もカンゼンに符合いたします。
いやあ、こんなにキッチリ答えが出たのって久しぶりなんで、なんだかカンドー。
だって、いつもブルースマンの誕生日なんて調べてると、いかにもホントらしいのがふたつみっつ出てきちゃって、ヘタすっと、早いのと遅いのとじゃあ、最大でひと世代違っちゃう、なんてのもザラですからねえ。

およそ 1940年代の晩期(ってそりゃワタシの生まれたあたりでやんすね)に New York に Merson というブランドのアーチド・トップのギターとギター・アンプを販売する会社が誕生しています。この Merson についてはまだ詳しいことが判明していないらしく、それらの楽器類を自社で生産していたのか、それとも単なるディストリビューターだったのかは特定されていないようですが、Vintage Guitars の Michael Wright は、おそらく後者だったのではないか?と推定しています。
1948 年の the Music Trades 誌12月号には、Merson ギターの最初の広告が登場しました。
モデル名を Tempo というエレクトリック・スパニッシュ・ギターは 59$50c.で、それ用のケースが 11$50c.となっています。見かけは Kay に似ており、ボディは「子持ち」のバインディングで巻かれていたそうですから、それがヒョっとすると Univox の「こだわり」だったのかも?
(ただ、この頃の Merson では他にも Harmony、Kamico、Favilla、Supro などのエレクトリック・ギター、Covella、Fontanella、Galanti といったアコーディオン、さらには Bandmaster や Rudy Muck などのブラス関係、Penzel-Mueller などの木管も扱っていたようですが)
ケッキョク Merson というブランド名は 1970 年代の初めまで主にロー・エンドの輸入モノに冠して使われてたようです。

1960 年代のエレクトリック・ギターの躍進期には Milwaukee の LoDuca Brothers によるイタリア製の EKO、Pennsylvania 州 Limerock 郊外の Philadelphia Music Company による独 Framus、そしてスカンジナヴィアからは Hagstroam がこの Merson によって輸入販売され、それぞれのシェアを獲得していったのでした。

さて一方、Unicord という変圧機器のメーカーがあったのですが、New York 州 Westbury にあった the Amplifier Corporation of America 略称 ACA を 1960 年代の初頭に買収し、Univox のブランドで販売し初めておりました。

その母体である企業 Unicord が 1967 年に、これまたドコにでも出てくる(?)例の Gulf & Western によって買収され、(一説では、この時期に Merson & Unicord が合併した、としている資料もあります。しかし買収話の真っ最中に合併ってのは「?」なんで、もしかすっと「まとめて買収され、ひとつになっちゃった」のかも?) Merson Musical Products, A Division of Unicord Incorporated, A Gulf + Western Systems Company っちゅう長~い名前の会社が成立したワケでございます。もっとも 1975 年にはこの結束(?)も解けてしまうのではございますが。

ま、それはともかく、楽器のブランド名としてはUnivox を使っておったのですが、1968 年からは「あからさまな」方針転換を行い、今でこそビザール・ギターなんて言ってコアなマニアに珍重されてはいるものの、当時の「ヤング(ひえ~っ!)」からするとミリョクに欠けたイタリア EKO や独 Framus、そして北欧の Hagstrom なんてえダサい(?)ギターの取り扱い高の減少を補うため、やや信義にもとる行為とは言え、Gibson の Les Paul や Ampeg のモデルのフル・コピー商品を日本の Matsumoku Guitar Factory ( Univox のみならず、Epiphone、Fender Japan、さらに Aria などの下請けでもある)から仕入れ、それにUnivox のロゴをつけて販売する OEM に手を染めるようになっていきます。

そして生まれたレスポール・カスタムのフル・コピー・モデル(とは言っても、以降で列挙した「相違点」もあって、見るひとが見れば「Gibson じゃない!」ってのが判るよにはなってますが)、U1885 は Earl Hooker によって(主にスティッカー・ワークによって?)手を入れられ、遥かヨーロッパまでお伴をすることになったワケでございますよん。

そして Magic Sam はそれを「お借りして」ヨーロッパのお行儀のいい聴衆にあの「高速ブーギ」をブチかました、と。
ううむ、あんなところで日本製のギターが!

あ、Hubert Samlin のボディはゴールド・トップの STD なのにネックはカスタム仕様のコテコテってヤツはまだ判りません。どーやら Univox じゃなさそうですが。
permalink No.733

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