If Trouble Was Money 1995 Ver.

Louis 'Mr. Bo' Collins


2004-10-20 WED.


さて皆様は以前に採り上げた Mr.Bo を覚えておられますでしょうか?
彼の兄弟、Little Mac Collins と共作し、1966 年に Detroit で録音されたオリジナルの If Trouble Was Money からほぼ 30 年後の 1995 年、ふたたび録音する機会を得たのですが、それがこの If Trouble Was Money ; Blue Suit BS-107D のなのでございます。

最初の If Trouble Was Money のリリース後、定期的にクラブで演奏などもしてはいましたが、彼の知名度は次第に落ちて行き、1980 年代には「忘れられた存在」になりかけておりました。
ところが 1993 年に、オランダの Blues Estafette からそのオリジナル・シングルがリイシューされたことでふたたび関心を持たれたようで、再発見(?)され、1995 年にはスタジオ入りして再び If Trouble Was Money をレコーディングした⋯のが本日ここで採り上げたほうの If Trouble Was Money なのでございます。

一聴、そのテクスチュアの違いにまず驚くかもしれませんが、しかしその大半は本人よりも、録音するテクニック、あるいは機材によってもたらされたサウンドの違い、といった気もしますね。
冷静になって、彼のヴォーカルだけに意識を集中すると、年月が与えたもの、そして年月が奪ったもの、が少しづつ見えてまいります。

以前からワタクシ、ブルースとは関係ないとこでも主張しておりますとおり、人間が年月とともに自然に「向上していく」なんてのは「そうだったらいいのにな」的希望に過ぎません。
人間が先人の智慧に学び、かつ自らも研鑽を重ねて向上してゆくイキモノであるならば、この地上から戦争や犯罪や貧困が一掃されている、ま、そこまで行かなくとも着実にそれに近づいて行っていなければならないハズなのに、現実はどうでしょう?
世の中、どんどん良くなってってますか?

また、若い人たちに訊きたい。あなたのまわりに「ああはなりたくない」オトナはいませんか?

オトナになれ、ってセリフが「なにかに目をつぶれ」って意味かよ、って思ったことは?

モチロンそれを言う「自称」オトナたちは自分を正当化しなきゃやってらんないから、自分が失ったものを「若気のいたり」だとか「まだ青かったんだな」なんて斬り捨ててます。

カン違いしてはダメ!加齢することイコール「向上」ではありません。
まわりが言うならともかく、自分で「ダテに XX 年も生きていねえよ!」ってセリフで年少者を押し切ろうとするオトナは、その「年数」以外、勝てるものがないってことなのです。マチガイ無いっ!

時間の進行とともに、自分が失いそうなものはなんなのか、をきっちりチェックし、それをちゃんと「考え」て取り込んで行く、という作業無しでは「向上」はありません。ただの変質です。
人生 60 年の経験が、生まれてからまだ 14 年という若さの「直感」より優れている、という保障はどこにもありません。そのことを若い人たちは、それこそ直感で把握していますが、おそらく世の「オトナ」たちは「ゼッタイに」認めないでしょうよ。
なんとかマウントできそな「年齢」に意味はない、なんて知りたくもないでしょうからね。
⋯おっとっと、また脱線してしまった。

てなワケで、齢を重ねることによって良くなった部分と失った部分が存在し、それはいつの世の、どのミュージシャンにもつきまといますから「 XXXXX はこのアルバムまでだな」とか、「いや!XXXX 以前のアルバムは聴くに耐えない」なんて論争が巻き起こるワケでしょ。聴くひとによって価値観が違うし、好みも違う。
だから同じミュージシャンに対しても、「どこを評価してるか」で見方が逆転する、なんてことが頻繁に起きるワケで。

この Louis 'Mr. Bo' Collins の場合、やはり歳月による変化は、そのヴォーカルに最もよく表れているようです。
最初の録音でみられた「迸るもの」は姿を隠し、なんだか、かえって「迷い」が時折り見えるような気もいたします。
そして「丸み」が出て来た、と言うよりは「溶けて」来た(?)という表現の方がしっくり来るように思います。より内省的に収斂していくものが見えるような⋯

また、彼にとってはたぶん思い出深いであろうこの曲に「想うところ」も多々あったのかもしれませんが、時たま紛れ込む「上の空」感が逆説的に、『 If Trouble Was Money 』というテーマがいまだに解決されていない(たぶんね)ことに対する彼の「感慨」を匂わせておるよーに思うのですが、ま、それは深読みのし過ぎっちゅうもんでしょね。

さて、このアルバムに関するレビューをザっと見たとこでは、彼を B. B. の影響下に見る論調が多く、また実際、最初の If Trouble Was Money では、まさにそう言われてもムリのないトーンがあったのですが、この新録音ではむしろ「より彼自身になった」という気がするのですがいかがっしょ?

また、ヘンなたとえですが、最初のじゃ、なんだか大ホールで大観衆を前にして歌っているような「仮想ショーマン・シップ(?)」みたいなものを感じたのですが、新録ではそれがグっと縮小し、実にライフ・サイズな、ちょうどブルース・クラブでのライヴのようなスケール感で、ミョーに親しみが持てます。
ここでのバックは、数年に渡って彼と一緒にやってきていたバンドだったらしく(ただし、そのメンバーについては判りませんでした)、その日常的な関係のままレコーディング出来たことが、このムリの無いナチュラルな仕上がりをもたらしたのかもしれませんね。
あ、でも、同じアルバムに収録されてる B.B. King Medley(曲名です!)ゃ、なんだか楽しそう(?)に B.B. になりきって歌ってるとこみると、本人は「 B.B. のコピーだ」なんて言われることをあまり気にしてないみたいですけど。

このアルバムによって、彼のブルースマンとしての生活は大きく変わったかもしれなかったのですが、その編集作業が終わってマスターとして聴くことが出来るようになる直前の 1995 年 9 月19日、彼は流感で Detroit の Harper Hostipal で 63 年の生涯を終えてしまったのでした。

If Trouble Was Money : Blue Suit BS-107D

If Trouble Was Money
Fire Down Below
I've Got The Blues
The Train
Precious Lord
Detroit, Michigan
Lost Love Affair
Born In The Country
B.B. King Medley
Buzz Me
I'm Gonna Get Even
Bo's Groove


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