Atlanta Moan

Barbecue Bob


2004-05-19 WED.





まずは異例ながら昨年十月九日にアップした(ハズだった)同じ Barbecue Bob の Unnamed Blues の再掲から始めさせていただきます。
Laughing Charlie に関する資料ともなっていたので逸失したままにしておくワケにいきません。ここ WOX では欠落した日付をあとから入れ込むことが不可能なため、このままでは資料的な意味合いで大きな損失ともなりえますからね。

Unnamed Blues / Barbecue Bob : 2003-10-09 THU.


特に戦前の、それもカントリー・ブルースの人たちの名前って、肉体的ハンデキャップをそのまま冠してる場合が多いですよね?
イチバン多いのが、Blind Lemon Jefferson に代表される「ブラインド」でしょう。
他にもペグ・レッグ・ハウエルとか、曲名ですが「スタッガー・リー」なんてのもありますね。
おそらく、黒人たちの間では見た目の特徴を仲間うちで、例えば「あのハーモニカ吹いてるデブ→ハーモニカ・ファッツ」みたいに、チビ→ショーティ、デカい→ビッグ、小さい(時にはコドモっぽい、若い)→リトル、なんて言い合ってたものが、さらに一般化してそいつの愛称になり、そのまま商標登録(?つまりレコード化されたときに「その名」が使われちゃうワケ)されちまう、って図式でしょうか。

日本ではそのような呼称を無自覚に用いることが差別につながる、として、近年見直しがススんでいます。
さて、ではアメリカじゃどーなんでしょ?Blind Lemon Jefferson のように、そのような意識の無かった時代に既に定着してしまったものについては「そのまま」行くしかないんでしょうかね?
ま、それはともかく、こんなコト考えたのも、戦前のブルースマンで、時々気になる名前に出合うからでして、以前に採り上げた Black Ace なんてのもそのクチです。で、今回、ワタクシの目が引っ掛かったのはこの、Barbecue Bob。
俺はウェスト・サイドの Barbecue Brothers さ。と言ってた Magic Sam のことがフと脳裏をよぎりますが、とーぜんカンケーはございません。

G オープンのボトルネックを使った12 小節( 2 小節目は「上がる」ことが「多い」。10 小節目も D のまま「に聞こえる」)のブルースは、意外とキュートで、優しいテクスチュアの曲です。
タイトルが判んないのは、この曲、Yazoo のこのオムニバスに収録されるまで、一度も世に出たコトが無かったため、とライナーにはありますが、そんなの理由になるんかい?っちゅうギモンが・・・ま、なんにしろ、記録が付随してなかったんじゃしゃーないけど。
終り近く、これまたこの初期のブルースによく登場するヨーデル的な裏声でのシャウト・・・ってほどじゃないし、なんと表現していいか、迷うとこなんだけど、ま、ゴスペルにおけるコール&レスポンスの「コール」に近いか?ってのが出てきます。
この発声法は、戦後のブルース、それもバンド化されて以降の都市のブルースでは殆どみかけませんが、初期にあっては、それだけヒルビリー系の音楽などとのキョリが近かったのでしょうか。
ただ、その発声のルーツについてはアフリカ大陸西部や西インド諸島、さらには中南米にまで及ぶ精査が行われなければ、安易にそんな決め付けは出来ませんね。

Barbecue Bob、本名 Robert Hicks は1902 年の 9 月11日に Georgia 州 Walton County の Walnut Grove で生まれました。
そしてまだ幼い時期に小作農だった両親と Newton County に移っています。
彼には二つ上の兄、Charlie*がおり、その兄を真似て彼もギターを習いはじめます。
しかし、両親ともに音楽には縁がなく、ケッキョク彼らは Savannah "Dip'' Weaver からギターのレッスンを受けることになったのですが、彼女こそ Curley Weaver**( James Weaver: 1906 -1962 )の母親でした。そこで教わるうちに年も近い Charlie、Robert、そして James の三人はすぐに仲良くなり、一緒に練習するようになったのは当然のことでしょう。彼らと親しかった、とされる Snap Hill によれば、この時期に Hicks 兄弟は 6 弦のギターから12弦に移ったのだそうです。

*Charley Hicks: 別名 'Laughing' Charlie、あるいは Charlie Lincoln は 1900 年 3 月11日生まれ。1923 年には Atlanta に移っています。彼はそこで結婚して家庭を築き、仕事も鋳造関係からベーカリー、最後は塗装会社に職を得て着実に生活していたようです(しかし弟の Robert とは違って、さほど社交的ではなかった、とも言われており、なのに「 Laughing 」という名がついたのはどーしてなんでしょね?)
一緒にギターを練習した James Weaver に弟の Robert、さらにそれに Eddie Mappe***を加えて、the Georgia Cotton Pickers の名で Atlanta 周辺で演奏活動をしています。1963年 9月28日死亡。

**James Weaver: Curley Weaver として有名。1906 -1962。別名は「 Georgia Guitar Wizard 」。1920 年代からレコーディングを始め、ジョージア・ブルースでは良く知られる名前となっています。
母の Savanah Shepard(後に結婚して Weaver となるのか、その辺は不明です)はゴスペル系のミュージシャンであったようですが、その息子である彼は(及び一緒にギターを習った Hicks 兄弟も)ブルースへの道を歩むこととなりました。Hicks 兄弟や次の Eddie Mappe***とも演奏活動を行っています。
彼は 1950 年代末に視力を失ったために活動を停止し、1962 年にこの世を去りました。

***Eddie Mappe 1911-1931。Georgia 州 Walton County の Social Circle の出身と思われるハープ奏者。彼が 1922 年に Newton 郡に移ってくる以前のことについては殆ど判っていません。
James "Curley" Weaver とふたりでダンス・パーティなどで演奏したり、ときには Hicks 兄弟も一緒に演奏もしています。彼は Newton 郡では最高のハーモニカ奏者と言われていたようです。ところで、Hicks 兄弟の兄、Charlie が Lincoln 姓を名乗っている件について、この Eddie Mappe の母の旧姓だった、とする資料がありますが、だとしても、ナゼそれを名乗っているのか、は「?」ですね。
Eddie Mappe は Document に残った Barbecue Bob のバックで聴くことが出来ます( Georgia Blues 1928-1933 DOCD-5110 )。1931年の11月14日、彼は Houston と Butler(ともに「通り」の名前・・・のハズ)の角で死んでいるのが発見されました。死亡診断書では彼の左手首の動脈が切れていた、とされていますが、Piano Red は「ガール・フレンドに心臓を刺されたと聞いた」と言っているそうです。いずれにしても Barbecue Bob の死からほぼ 2ヶ月後の突然の「死」で、弟ばかりか、この Eddie Mappe をも失った Charlie Lincoln がショックから音楽を捨ててしまうのもムリはなかったんでしょうね。

1923年に Atlanta に移った兄の Charlie を追って Robert も1924年には Atlanta に移り、職につくのですが、兄と違ってキラクなタチだったとみえて、あまり将来のコトなど考えず、稼いだカネはスグ使い切るような生活を送っていたようです。
上の注釈で挙げたメンメンとアトランタ周辺で演奏活動をするうち、1927年には Columbia Records のスカウト・マン Dan Hornsby に見出され、5月に Atlanta で録音したのですが、丁度その時に働いていた Tidwell's Barbecue を「売り」にしよう、ということでシェフの白衣を着せて Barbecue Bob の名前で出したところ、そこそこヒットし、その後、ニューヨークまで出向いて吹き込んだりもしています。
有名な作品としては Motherless Chile Blues など。そして、ヒットを出したことによるヨロク(?)か、彼は兄の 'Laughing' Charlie Lincoln、Curley Weaver、Eddie Mappe の吹き込みを誘い、さらには、若いギタリスト Buddy Moss( 1906 or 1914-1984 )が引き続き録音されることになる状況をリードした、と言えるでしょう。
しかし大恐慌がレコード業界を直撃し、状況は暗転します。彼の最後の録音は1930年12月のものとなりました。翌1931年の10月21日、Georgia 州 Lithonia でインフルエンザに起因すると思われる肺炎で死亡しました。29才という若さでの死でしたが、その 2ヶ月後には Eddie Mappe が、1年後には彼の妻が、さらに 2年後には母も死んで、これじゃ兄の Charlie もヤル気を無くすのも無理はないでしょね。




とゆうことでここからは Barbecue Bob の Atlanta Moan でございます。
かって Moan 系(?)といたしましては Katie Webster の Pussycat Moan っちゅう、そりゃもうヘヴィな名曲をご紹介いたしましたが、それに比べれば、こちらはあんまり深刻さは感じられませんね。ま、なんたって歌ってるのが「バーベキュー屋のボブさん」じゃあ、どしたってシリアスにゃなりませんわな。

自ら伴奏するギターといい、カンジンの歌そのものも、どことなく「のどか」な、ま、牧歌的とさえ言ってよいようなユルさの中で進行してゆくのでございますが、それでも Moan というタイトルにふさわしく(?)「うめき」らしき「ん~、ん~」っちゅうとこが「ちゃんと(?)」含まれております。

ギターはパワーよりも、バッキングに徹したやや控えめなものですが、それでも「弾き語り」としての完成度はやはり相当なもので、きちんと歌につれて変化し、演出し、補強していくあたり、やはり Columbia が目をつけて「売り出した」だけのことはあります。
10月 9日の Unnamed Blues や、その後で採り上げた Charlie Lincoln(これも昨年 10月16日付で採り上げた Barbecue Bob の兄)の Doodle Hole Blues あたりを聴いてますってえと、この一派、どことなく Blind Willie McTell にも通じる、ま通俗的な、と言えないこともないユルい一面が、ある意味、「味」になってますよねえ。

モチロン、中にゃあ、「それが Georgia のブルースってえもんだよ、キミィ」なんてのたまうお方がおられるやもしれませんが、(あ、別に反対はいたしません。よろしいんじゃないでしょか?)ワタクシといたしましては、Guitar Wizzard の異名をとる James Weaver やら、同じく Harp Wizzard と言われた Eddie Mappe に Eugene "Buddy" Moss、さらには前述の Blind Willie McTell などとの交流を通じて、それらの「ぱーそなりちい」によって形成されたひとつの共通言語的な「個性」だったのではないか?と考えておるのでございますよ。

もちろん、気候風土が違えば、そこに暮す人々の嗜好も変化するのは事実です。
でも、その同じ風土の中でも(そのバイアスを受けていたにしろ)かなりな幅のある、様々な個性が「誕生」まではしていたハズじゃないでしょか。
そしてそれらの中で「成長」し、開花できるかどうかは、やはりそのミュージシャンの持つタレント(ここでは「資質」ってえイミね)にかかってんじゃない?

ハタから見て、ある一群に共通した特質が認められるとき、それをワタシのように人脈で捉えるか、あるいは地域で捉えるか、その違いです。ま、確かに地域で括るのって、「なんとなく」判ったよな気になりますからベンリはベンリなんですが、あまりそれに依存しちゃうと、見失ってしまうものがあるよな気がします。

でも、一方で、江戸川スリムさんの Sweet Home Chicago という pages を見ると、Chicago という街への愛着、いえいえ「愛情」とすら言えるものを感じて、ああ、こんな幸福な関わり方をしているのなら「シカゴ・ブルース」と言われても納得できるなあ、と、ある意味「羨望」に似た想いにかられますね。
そしてそれは我らが BLUES'N のダディ正井にも感じられます。
セッションで「どんなのがいい?」と尋けば即座に「シカゴ!」と返ってくるあの熱愛ぶり!
やはりそこに深い愛情があれば、単なる「決めつけ」じゃなく、一種の「 Love Call 」へと昇華するのね。

その Chicago から来た(しかも昨日の Billy Branch とも縁のある) Carlos Johnson の日本での演奏、とっても評価が高いようです。
本来ならばメインである Otis Rush の健康面に問題があって、ギターを一手に引き受けているらしいですが、あちこちの板でのインプレッションで見ると、とても感動的なステージが続いているようです。
でも、そんな状態の Otis Rush を、いくら契約しているからと言って、ステージに立たせるのはどうか?という考えもあるのでしょうが、そのヘンはワタシにはなんとも言えません。
Otis Rush 自身がどう思っているのか・・・
ワタシが思うのは、今回の来日公演がリハビリの妨げにならなければいいんだけど、というそれだけです。
そのステージが感動的だった、という声を聞けば聞くほど、感じるこのココロの痛み、やるせなさってなんなのでしょう?とっても複雑な気持です。
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