Dust My Broom

Arthur "Big Boy" Crudup


2004-10-04 MON.


一日おいての Dust My Broom の再登場でございます。
Dust My Broom と言えば、モチロン最も有名なのは先日の Elmore James が 1951 年 8 月 5 日、Lillian McMurry の Trumpet に吹き込んだヴァージョンで、それ以降、それがスタンダードになってしまった感があります。

でも、みなさんご存知のように、この曲が歴史の上に登場するのはもっと早く、それは 1936 年11月23日、Texas 州 San Antonio のホテルで行われたレコーディングでのことでした。
ARC のスカウトマン Ernie Oertle が Mississippi 州 Jackson にあったレコード・ショップの白人の店主 H. C. Speirs から紹介された Robert Johnson という男を録音し始めたのですが、一曲目はこれも有名なKind Hearted Woman Blues で、これを 2 テイク録った後、次に歌い始めたのがこの Dust My Broom のプロト・タイプ、I Believe I'll Dust My Broom でした(ついでながら、その次は Sweet Home Chicago でございました。そこら詳しくは Hellhound Trail で)。
この時点をもって、この Dust My Broom も Robert Johnson の「作」である、ということになったのですが、モチロン、そこら異論は「どっちゃり」あるワケでして、例えば、それを遡ること 4 年、Georgia 州 Atlanta で 1932 年に Victor へのセッションで録音された I Believe I'll Make A Change と言う曲があります。これは Aaron Sparks and his brother Milton という名義で吹き込まれていますが、後に Pinetop and Lindber という名前で 78 回転 SP として出ています。
それを聴くと、I Believe 〜ってとこなど、モロ Dust My Broom じゃん!

そのピアノの Aaron Gant と、ヴォーカルとスプーン(ザディコでお馴染みのリッパなハンド・パーカッションでございます。ま、たいてーの方は知っているとは思いますが) Marion Gant の兄弟は、それを自作の曲、として持って来ており、それを基にした、と思われるヴァージョンを 1934 年には Leroy Carr と Josh White がすでに演奏しております。
また、その同じ 1934 年の 9 月10日には Chicago で Kokomo Arnold が Sagefield Woman Blues を録音しており、そこには Dust My Broom に直接結びつく歌詞がすでに登場している、という指摘もされておるのですねえ。
つまり、I Believe I'll Dust My Broom というタイトルで Dust My Broom のプロト・タイプを提示したのは確かに Robert Johnson なのですが、ま、以前にも言ったように、戦前のブルースで誰がオリジナルか?なんてえのは「かなり薮のなか」と思ってマチガイ無いのでございますよ⋯

まだ権利意識の薄い時代には、それを吹き込んだヤツの「作」ってことにされちゃう(それどころか、ダマせそなヤツには著作権すら認めてやんない、っちゅー悪徳プロデューサーもいたくらいで⋯)ワケで、それ考えると、「この曲のオリジナルは XXXX!」なんて断言すんのは一応「モンダイは無い」ってことになるかもしれないけど「真実からは遠い」という可能性もあります。

ま、それはともかく、Elmore James が Arthur "Big Boy" Crudup と Sonny Boy Williamson II に遭ったのが 1948 年で、翌 1949 年にかけて、彼らは Arkansas 周辺を一緒に演奏して歩いているようですが、そこで Arthur "Big Boy" Crudup の演奏する Dust My Broom に「触れて」いるワケですねえ。

てなワケで前置きがムチャムチャ長くなっちゃいましたが、Arthur "Big Boy" Crudup の Dust My Broom、聴いてみましょ。と言っても 1960 年代後半に Delmark に入れた「かったるい」ほーのじゃなく、1949 年 3 月10日、Chicago で Ransom Knowling のベース、Judge Lawrence Riley のドラムとともに VICTOR に吹き込んだほーでございます(お馴染み、WHEN THE SUN GOES DOWN vol.4: THAT'S ALL RIGHT に収録)。
Elmore James とは「あまりに」違うんで、最初の一コーラスなんて、これホントに Dust My Broom?なんて声も出そうですねえ。ま、歌詞の違いだけじゃなく、この Arthur "Big Boy" Crudup の場合、一切スライドを使ってないんですよね。そこらも大きく影響してるのかもしれません。
確かにドラムとベースも入って「シティ・ブルース」っぽい外観はまとっておりますが、なんだか、ギターとヴォーカルだけで完結しちゃう、「プリ・バンド・ブルース」的なスタイルが基本になってるよな気がするんですよね。

ま、Elmore James と違うから、と言って、じゃ〜ダメ!ってことじゃなく、これはまた滑らかなヴォーカルで朗々と歌っていくタイプで、それだけに歌詞の持っている意味合いが良く伝わるよな「明瞭さ」があります。
そして意外と面白いのがバックの Ransom Knowling のベースで、なかなかいい味を出しています。ウッド・ベースの癖も良く捉えられており、そこら Nashville の誰かさんの音作りとはエラい違いですねえ。
Ransom Knowling とはドラムの Judge Lawrence Riley 同様「あの」 That's All Right Mama からの付き合いですから手慣れたセットだったんでしょう。

Robert Johnson と Elmore James をつなぐ Dust My Broom のライン上の、ひとつの経過地点としてだけの存在ではなく、別な輝きを放っていた、この Arthur "Big Boy" Crudup、特に Bluebird 時代は、独特の艶があってよろしいのですよ(実は最初に聴いたのが Delmark ので、しょーじき、アレで彼を見直すのが遅れたのかもしんない。ま、Delmark の Arthur "Big Boy" Crudup が好きってゆう方もおられるんでしょうが)。

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